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願望(のぞみ)


「紫(ゆかり)さんはそう長くはもたないでしょう」


医者からその言葉を聞いたとき 俺を含む家族全員凍りついた

オレの名は孤門(こもん)耕太 高校生だ 

オレにはたった一人の自慢できる妹がいる

中学生の妹 紫(ゆかり)だ

紫は生まれつき体が弱くよく病気をしていた

そのために学校にもあまり行けず いつも家で過ごしていた

父さんも母さんも共働きで学校から帰っても紫と二人きりだ


「兄ちゃん ごめんね いつも 私のせいでお友達と出かけられないじゃない」

「べつにいいよ オレがいない間 紫に何かあったら大変だ」


そんなやり取りを毎日 繰り返していた

ある日 紫に「私の事は大丈夫だから ね? いってきなよ」

と言われ強制的に家から出るハメになった

あいつがそういうなら・・・そう思いオレは友達に会いに行った

ところが帰りがけ携帯が鳴った


「もしもし?」

「大変! 紫が 紫が きゅ 救急車で」

「え!?」


オレは急いで病院に行った

どうやら前からあった病気がひどくなったらしい

そして 医者のあの言葉を聞いた



オレはショックだった アイツが・・・紫が・・・何をした?

なんでこんな目にあわなければならないんだ?



そう思いながら しかし そんなことを表に出さずオレは紫の元へ


「あ、兄ちゃん」

「よっ どうだ調子は?」

「うん まぁまぁ」

「そうか」


どうしてもオレの口からは言えなかった 真実を知ったとききっと紫は悲しむ

紫の悲しむ顔は見たくなかった。


「ねぇ、いつもごめんね私のために・・・」

「大丈夫さ だって俺達兄妹だから 何でも言えよ 遠慮せずに」

「じゃあさ 一つ いいかな」

「何?」

「海が見たい 一回写真じゃない 本物の」

「だって、私体弱いしいつも家ばかりにいたから 見てみたいの 海 きれいな青い海を」

「ああ 分かったよ 必ず 必ず見せてやる 約束だ」

「うん! 必ずだよ」


紫と約束はしたがどうすればいい。 

病院側も重病の患者を遠くにはなかなか出させてくれないだろう


考え込んでいると 突然


「それが君の願望(のぞみ)かね?」


後ろからそんな声が聞こえた 振り返るとそこには見慣れぬ男が立っている

(彼)は夜色の外套(マント)を身にまとい影と共にそこに立っていた


「誰だ?」

「私は(名づけられし暗黒)そして(全ての全と悪の肯定者)・・・・私に名が欲しければこう呼びたまえ

(神野 陰之)と」


明らかに怪しい そして怖そうな雰囲気の男だったがオレはちっとも怖くは無かった

いや それどころかこの人には何でも言えるような感じがした


しばらくの沈黙の後 オレは神野に質問をぶつけてみることにした


「願望(のぞみ)を叶えるってどういうことだ?」


すると神野はくっくっと 嗤(ワラ)いながらこう答えた


「君が望めばそれでいい 君の心の中の願望(のぞみ)を私に解き放てば それでいい」

「ならばオレは妹に 紫に 海を見せてやりたい おれの願望(のぞみ)はそれだけだ」


すると神野は再び嗤いながら


「いい願望(のぞみ)だ よろしい その願望(のぞみ)を叶えてあげよう」

「? ちょっと」


その時 人込みが神野を包み込むように覆い 神野はその中に消えた


「なんだったんだ?あれ」


翌日

 
「紫 元気かー」

「うん・・・げほっ ごほっ」

「大丈夫か んっ?」


オレは紫の左胸辺りにおかしなものが見えた

一言で表すなら小さな明かり しかも小さく揺らいでいる


「何だ コレ? 紫 何 この胸にある明かり」

「えっ 何それ?」

「見えないのか? ほら」

「分かんない」


どうやらオレにしか見えないようだ

この明かりについて考えていると急に紫が口を開いた


「いいなぁ」

「何が?」

「ほら あれ」


紫が指差した その先には窓があり 屋根に鳥が止っているのが見えた


「あの鳥のように自由に空を飛べたらいいな いやなことも全部忘れて

空を飛ぶの そして 空から海を見るの」

「・・・・紫」

「あ、ごめん兄ちゃん 変なこと言って」

「いや いいんだ そろそろ帰るよ」


病院を出たオレはしばらく街中を行くあてもなく彷徨っていた


「空を飛びたい・・・か」


すると前方から声が


「こんにちは キミ 大変だね 病気の妹さんがいるんだって?」


汚れのない笑顔でこちらを見つめてくる

しかし、不思議だ何故この少女は紫の事を知っているんだ?


「それはね 私が(魔女)だからさ」

「魔女?」

「そう、魔女。 びっくりした?」

「あ、ああ」


頭の整理がつかない 何しに来たんだ この女


「ねぇ キミの妹さんさぁ 何かわだかまりがあるんじゃないの?」

「わだかまり?」

「うーん なんて言うかね そうだ 心配してるんだよ キミの事」

「紫が オレの事を」

「自分がいるせいで キミが不自由だ と、すると 彼女は

(自分がいなくなれば 君は幸せになれるじゃないか)とでも考えているんじゃないのかな?」


その言葉は刃となってオレの胸に刺さる


「う、嘘だ 嘘だぁぁぁー!!」


そのままオレは走って家に帰る そして部屋に閉じこもった

その夜1本の電話が入った


「もしもし○病院ですが 実は 紫さんの容態が急変しまして・・・」


すぐに病院に急いだ

病室に着くと苦しそうにしている紫の姿が


「紫!」


紫の顔がこっちに向く と同時にオレはあることに気付いた

紫の胸の明かりが 小さくなって消えそうになっている

オレは気付いた そう これは紫の魂の力なのだと

なら オレにできることは・・・いや考えている暇はない!

オレは紫を抱きかかえ 車椅子に乗せ走り出す


「耕太! 待ちなさい!」


親父が止めようとしたがそれを押し切る

病院を出てさらに走る しかし紫の明かりは小さくなっていく


「これが・・・消える前に ええい!」


走る が、海は見えない だが 走るしかない

走っているとか細い声で紫が言った


「にぃちゃん・・。」

「馬鹿 妹の願いも聞けない兄貴がいるか

オレはお前に心配かけてばっかりだ

本当はお前に助けられてばっかりだったんだ!」

「にぃ・・」


声が聞こえなくなった 明かりが 消えていた


「お、おい 紫 起きろ 起きるんだ まだ約束を果たしてない まだお前と・・・」


すると後ろから声がした


「じゃ 行こうよ 約束を果たしに ね?」


紫の声だった

その瞬間オレの体がふわっと浮いた

ビルがどんどん小さくなり 海が見えた


「きれいだね 海」


紫の声は聞こえるが姿が無い


「紫? どこだ 紫?」


再び 声が


「もう にいちゃんには見えないよ でもね、私はいつもにいちゃんのそばにいるんだよ」

「そんな オレは オレは」

「泣かないで にいちゃん 私ね 今幸せなの

家族との にいちゃんとの思い出を翼にして空を 飛べるの 願いが叶ったんだよ」

「だから 心配しなくていいよ」

「紫 行かないでくれ 紫!」




「ありがとう」




その言葉を聴いた瞬間 オレの意識が遠のく


しばらくして気がつけば自分の部屋にいた


「紫・・・」


窓の外から (魔女)と(暗黒)が見つめている


「ねぇ あの人かわいそうだね 妹さんいなくなったみたいだし」

「私は喜怒哀楽を与える存在(モノ)ではない 人が内に秘める願望(のぞみ)を具現化する存在(モノ)だ

人がどんな感情を持とうと 私には関係ない」

「ふーん」


こうして二人は深い闇に消えた 次の願望(のぞみ)を持つものが現れるまで 








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