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(c)新藤悟 2005 - All Rights Reserved




――3. 



 さてさて、魔族とな。人間と亜人についてはミーナとハルトから聞きはしたけれども、魔族とは初耳だ。私の知る世界からすれば亜人が存在する時点でだいぶファンタジーだとは思っていたけれど、なるほど、ファンタジーなら魔族の一人や二人居てもおかしくはないのかもしれない。
おかしくはないけれども、気になるのはさっきミーナもハルトも魔族に関しては触れなかった。だいたいどんな物語でも魔族は世界からの嫌われ者であり、世界中から敵視される存在だ。果たして、この世界でもきっとそうなんだろう。
――まるで××みたいだ。
 ふと、そんな言葉が頭の中を過ぎった。それは私が意識したものでは無く、まるで私の中にいる誰かが何気なくつぶやいた様なそれ。あまりにも自然で無意識で、考えた自分でも誰がつぶやいたのか分からずにポカンと呆けてしまった。

「ああ、魔族ってぇのはな――」

 私が呆けていたのを、魔族について知らないからと思ったのかハルトが説明してくれる。
ハルトが言うには、やはり私が思ったのと同じく魔族というのは世界の嫌われ者らしい。彼らは何処からともなく突然やってきて村を、街を、そして国を襲っていく。そこに人間も亜人も関係ない。ただ襲い、蹂躙し、喰らい尽くしていく。交渉は通じず言葉も通じない。彼らが何を求め、何の為に襲ってくるのかそれさえ分からない。分からないが、遭遇したらする事はただ一つ。戦うだけだ。どちらかが全滅するまで。

「奴らにゃ慈悲も何もあったもんじゃねえ。手当たり次第にオイラたちを殺していき、中には喰っちまう奴らもいるって話だ。幸いなのは中々遭遇しねぇ事だな。奴らは数だけは少ねぇからな」
「そんなに少ないならそこまで脅威にはならにぇと思うんだけんど? さっきにょ怪物種みたいに討伐したりはしねいの?」
「数は少ねぇんだけどな、それを補うくれぇに奴らは強ぇんだ。魔法は使うし力は強ぇし、国の軍隊が十人二十人くれぇ集まってようやく一体とまともにやりあえるっつぅ話だかんな」

 魔法、という単語が出てきた時、不意に頭の奥に痛みが走った。鈍く奥底に響くような痛み。一瞬だけ何かが頭の中を過ぎっていって、靄の様な不明確な映像が浮かび、そして消えた。それはまるで霞の様に曖昧で、これが何か考える前にあっさりと痛みは遠のいた。
 何だ、と思うがともかく今はハルトの話だ。

「そんな相手をゴートたちが捕まえたの?」

 ていうかゴートはそんなに強かったのか。ミーナに対する態度を見てると権力を笠に着て弱い者イジメをする小者にしか見えなかったんだけど。いや、鍛えあげられた肉体といい、私なんかよりもよっぽど強そうなのはわかってたけれど。

「おお、ゴートは強えぇぞ? 村長の息子だから何もしねぇでも食っていけるにも関わらず、別の国に行って兵隊やってたくれぇだかんな。そこそこ出世もしたらしいぞ? 今でも村長ながら村一番だ。けどま、魔族を相手にできんのはゴート本人っつうよりも武器の恩恵がでけぇかな?」
「武器?」
「魔族相手にすんのに一番の問題になんのはアイツらの体だ。よく分かんねぇけど奴らの体はすっげぇ硬くて並の武器じゃ歯が立たねぇんだ。オイラも前に一回だけ試してみたけど普通の鉄とかじゃ全然ダメで傷さえ付かなかったな」
「でもそんな魔族を傷つける武器が持ってる?」
「魔族に対する一番の武器は魔族の体を加工して作られた武器なんだ。そいつなら普通に攻撃が通るし、奴らの攻撃も防げる可能性が高くなるんだ。ま、そうは言っても普通の道具じゃ加工は出来ねぇし、数も少ねぇから中々出まわらねぇんだけどな」
「そんな立派な物をなんでゴートが持ってるんの?」
「ゴートだけじゃ無いよ?」

 説明しようとしたハルトよりも先にミーナが口を開く。

「この村の人はみんな一つは魔族の体から作った武器とか道具を持ってるの。私のも……ほら」

 そう言うとミーナは物入れから弓矢を持ってきて差し出してくる。ミーナらしくピカピカに磨かれてるそれは少し私が想像してたものと違って、和弓のように自分で弦を引いて矢を飛ばすタイプではなく、見た目はボウガンに似てて、しかも矢をまとめて設置できるようにストックの様な物が付いてる。

「この矢だとどんな動物でも簡単に刺さるし、どれだけ強く引いても弦が切れたりしないんだ。それに、この弓矢だと命中率も良いの」
「それは単にミーナの腕が良いだけだと思うけどなぁ。
 まあいいや。なんでオイラたちが持ってるかってぇと、ゴートの前の村長が配ってくれたからなんだ。オイラがまだちっせぇ時だったかなぁ。どっからともなく大量の武器や農具を持ってきてよ、それぞれの家に配って歩いたんだ。村長がどっから持ってきたんかはオイラたちの誰も知らねぇ。けどそれ以来畑を耕すのも獲物を狩るのも楽になったし、たまに逸れの魔族が村の近くに現れても村の力自慢たちだけで退治できるようになったし、だからオイラたちも深くは追求しなかったな。
 んで、そんなわけで魔族を倒すのも楽になったし、退治した魔族の素材の一部をオイラたち村の物にして、村で加工できねぇような素材は村にやって来る行商人に高く売っぱらっちまうんだ。おかげでこの村は不作でも飯に困るような事はねぇな」

 なるほど、そういう事ね。最初に持ってきた前村長が何者かは分からないけれど、その村長もたぶん元はどこかの国の兵士か何かだったんだろう。しかも単独でその強い魔族を倒せる程の。独り占めしなかったのは欲が無いのか、それとも自分は武器をすでに持っているから必要なかったからか。正確な意図までは推し量れないけれど、ハルトの口ぶりやミーナが誇らしげにしてるところを見るときっと皆に慕われる人格者だったんだろう。私としてはどうしてかあまり好きになれそうな気がしないけれど。どうせもう会うこともできない人だろうから関係ないけれどね。

「……せっかくだから見に行ってみるか?」
「え?」

 ハルトの言葉にミーナが驚きの声を上げた。それはそうだろう。ゴートたちの態度からお世辞にも私やミーナが村で好まれてないのは分かる。外の喧騒から察するに相当数の村人が集まってるだろうし、そんな所に私たちが出て行っても間違いなく歓迎なんてされないだろう。

「ミサトもまだ眼が覚めて一回も外を見てねぇだろ? こないだから作ってた何だっけな……車椅子? アレも完成してるみてえだし、ちょうどいい機会だ。魔族がどんなもんか聞くだけじゃなくて実際に見てみればいいじゃねぇか」

 家に引きこもって勉強してるばっかじゃ気が滅入ってくる。どうせ私は他にすることが無いので暇にあかせて自分で移動できる様に車椅子の制作も並行して行ってた。さすがに金属を加工するなんて器用な事は出来ないので、木材の調達だけハルトにお願いして勉強してない間のほとんどを車椅子に費やし、ちょうど昨日出来上がったところだ。素人の腕で細かい機構とかは作れないのでお世辞にも乗り心地は良いと言えないし耐久性に不安はあるけれど、まあ、ちょっとした移動なら十分我慢出来るできだとは思う。だから、私自身は外に出るのは吝かではない。問題はミーナなんだけど――

「私は行く。ミーナはどうする?」
「ミサトが行くなら私も行くよ」
「いいの?」

 私は他人からの眼は気にしないけど、ミーナはどうだろう?無理に厳しい視線の中に晒される必要は無いと思うのだけど。

「無理しなくても良いんだぞ? ミサトの車椅子ならオイラが押すし」
「ううん、大丈夫。私も魔族をキチンと見たこと無いから見てみたいし」
「そうか? なら一緒に行くか。ミサトはミーナが押してやれ」
「うん」

 ミーナは嬉しそうに頷くと、部屋の隅に置かれてた真新しい車椅子を押してくる。あまり気分の良い場所に行くわけじゃないのにミーナが楽しそうなのは何故だろうか。
ミーナに手伝ってもらって座っていた椅子から車椅子の方に乗り換え、ハルトが押し開けたドアへ向かう。ミーナに押された車椅子の車輪が回転する度に上下に振動して椅子の部分が軋む。
そして私はこの世界で初めて外に出た。
外は快晴。空はこの世界でも青く、薄く高い位置にある雲の白が青空によく映えていた。いつ以来か分からない太陽は私の想像を超えて眩くて思わず手を掲げて光を遮ってしまう。指の隙間から覗く陽光は暖かくて、何故だか私を祝福してくれてるみたいで少しだけ嬉しくなった。
家の外は背の高くない木々に囲まれていた。葉が青々と茂って瑞々しい。脚元も草原の様に芝が生えていて、強烈な土の香りが鼻をくすぐってくる。
――これがこの世界……
 空の蒼、雲の白、草木の緑。世界は色彩豊かで、光に満ち満ちている。光合成で木々が新鮮な空気を吐き出し、風が匂いと一緒にそれを運んでくる。
世界とはこんな所だったのだろうか。記憶を失った体が覚えている感覚が違和感を訴えてくる。

「あっちの方みてぇだな。ゴートんちの前の広場で解体してんだろう」

 ハルトを先頭にして、芝生の中に伸びる整地された一本道を進む。立ち並ぶ木々の合間を縫って進むと次第に村人のものらしき声が大きくなっていく。
しかし結構距離があるな。振り返れば過ごしてる家の外観が見えるけれど、なんともまあ薄汚い。周囲に他の家は無いし、村の中心までの距離といい、同じ村に住んでいると言っていいのか何とも判断に迷うところだ。まさに村外れ。いかにミーアが村でハブられてるかがよく分かる。よくミーナも我慢して過ごしてるなと思わず感心するよ。
生い茂った葉の影が不意に途切れて日光がもう一度差し込んできて、思わず眼を瞑って、恐る恐るまぶたを開けてみた。
そこには色んな亜人たちが集まってた。目に付く範囲で牛頭に馬面。犬っころに猫娘に鷲面に鶏頭。ありとあらゆる動物の体を持った人たちが居並んで、皆二本足で立って円形に集ってる。私の感覚からすれば何ともシュールな光景だ。ま、もうハルトで見慣れてるけれど。

「今回は結構な大物だな」
「こりゃいっぱい物が作れそうだな。よかったぜ、ちょうどもう少し大きめの斧が欲しかったんだ」
「アンタ! 今回はアタシの包丁が先だかんね!?」
「やったな、鍛冶屋。これでしばらく寝る暇もねえぜ?」

 背の高い獣人たちのせいで輪の中心が見えないけど、たぶん中心では魔族の解体が行われてるんだろう。こうやって見世物になってるところをみると、ホント一種のショーなんだろうな。

「こりゃ見えねぇな」

 ハルトがボヤくように呟いて、後ろのミーナも残念そうに頷く。
と、それまで魔族の方に注目していたモコモコの毛を持つ羊がこっちに気づいた。そして余計なことに声を上げて私たちの事を周囲にお知らせなんかしてくれやがった。

「ね、ねぇ! アイツも来てるよ!」

 その声をキッカケにして魔族の方からこっちに次々と視線が向けられた。
予想してた通り視線は冷たい。冷たいなんてものじゃない。明らかに皆蔑みに満ち溢れた何とも居心地の悪そうな有難い目つきを向けてくる。喜色に満ちてた声はざわつきに変わって、一気に急降下。アチコチからヒソヒソと囁き声が聞こえてくる。

「ねぇ、ほらあの娘も来てるわよ」
「まさか自分も貰えると思ってるのかしら? ホント図々しい娘ね」
「村から追い出され無いだけでも感謝して欲しいもんだぜ、まったく」
「おい、あの人間のガキも来てるぜ」
「なんだってゴートはさっさと殺しちまわねぇんだ?」

 ヒソヒソと互いに耳打ちしてるくせにわざわざコッチに聞こえるくらいには大きい声で話してる。いやらしい悪意に満ちた言葉だ。ミーナは必死に手を顔の前で左右に振って「自分は要りませんよ」とアピールしてるけど肩身がひどく狭そうだ。やましいところは無いからかハルトは堂々として悪意の塊を受け止めてる。私は別に気にはならない。これくらい予想はしてたし、右から左へ声を聞き流しながら「やっぱり別に羊だからって語尾に『めぇ〜』とか付けないんだな」とかどうでもいいことを考えてた。

「ミーナは帰ってもいいよ? 私は一人でも帰れるし」
「ううん……大丈夫。これくらいいつもの事だし」

 気丈にミーナはそう言ってくるけれど、その表情は当然だけど晴れない。とても辛そうで、でもそれを私やハルトに見せまいと必死で隠してるけれどしおれた耳や力なく垂れた尻尾のせいで隠しきれてない。
私は自分で車輪を回して亜人たちの輪の中へ突っ切って行く。後ろでミーナが慌てる声が聞こえるけれど、まあいいや。このままだと折角外に出たのに肝心の魔族とやらが見えないし。
そしたらコッチを見ていた亜人たちがモーゼよろしく道を開けてくれた。なんだろうな、歓迎されてないとは思ってたけれども、もう少しコッチに対してアクションがあるかと思ってたんだけどな。例えば強制的にこの場から退場させられたりだとか、最悪殴られたりだとかもあるかと思ってたんだけど、どうにも関わりあいになりたくないっていうのが本音らしい。正に「同じ空気も吸いたく無い」って奴らしい。人混みは嫌いだからそっちの方が私的には助かるからいいけれどね。
だから私たちはすんなり輪の最前列に出ることができた。そしてそこでは私の予想通り魔族の解体が行われていた。
第一印象は全身黒ずくめ。魔族という言葉の響きから人型だと勝手に思っていたけれど、そうでは無いらしい。すでに手足の何本かは切り取られていて全体像はイマイチ把握しきれないけど、横たわってる姿から察するに何だか動物っぽいフォルムだ。犬を思わせる頭部に横に長い胴体。切り取られて別に解体されてる足も短くて小回りが効きそうだ。
だけども私の印象では動物というよりもこれは――

(ロボットみたい……)

 全体を覆う、金属を思わせる硬質な表皮に鋭利な印象を抱かせる無機質なデザイン。光の灯らない瞳はガラス製のレンズみたいに見えるし、壊れたパーツの隙間から伸びる千切れてだらしなく垂れ下がった線は全身に張り巡らされた回路だ。表皮を剥ぎ取られた後に見える筋肉や血抜きされて流れ出てる体液とかを見ると動物なんだけど。
そう観察し考察してる間にも解体は進んで見る見るうちに幾つもの部位に分解されバラバラになっていく魔族。変わらず私たちの周りには誰も近寄らなくてポッカリと空洞ができてる感じになってるけど、解体してる職人にしてみればそんな事はどうでも良い事らしくて黙々と作業を進めてる。

「さて、と。お次はコイツの心臓部だ」

 作業をしてるゴリラのおっちゃんが声を上げると、俄に観衆のざわめきが大きくなって期待感が広がる。

「けど……このサイズじゃあまり立派なものは期待できねぇな」

 そう言うと同時に膨れ上がった期待感が萎んでいく。けれどそれも一瞬の事で誰もが程々には期待を抱いてるのが周りから何となく伝わってくる。
そんなに心臓部が良い物なのか、とハルトを見上げた。

「心臓部は魔力を作り出せるからな。あのおっきさじゃ荷車を動かすまでは無理だろうけんど、一人乗りの絨毯とかホウキとかなら使えっからな。それにちっせェとは言っても個人で持つ分には破格だし、国軍とか貴族連中には高く売れるな」

 絨毯とかホウキとかイマイチ心臓部との関連が分からないな。てか、一人乗りってなんだよ。絨毯もホウキも乗り物じゃないし。魔力を作り出すっていうのは、たぶん人間で言えば血液を作り出すって事なんだろうけど、何かの動力に使うんだろうか?
不意に歓声が上がる。思考から現実に戻り、ゴリラの方に視線を戻した。
解体していたおっさんが手に何かを持って天に掲げた。一際歓声が大きくなる。私も空を見上げ、陽光に反射するそれを見た。そして言葉を失った。

「違う……」

 知らず私はつぶやいていた。
何かの液体に塗れた「心臓」もまた金属でできていた。四角く立方体に近いそれは明らかに人工的なもので私の知る心臓とは似ても似つかない。心臓が脈打つみたいに一定間隔で淡い光を発したり消えたりを繰り返してる。どう見てもあれは心臓じゃ無い。どうして誰もそのことに気づかないのか。
頭が痛む。瞬間的に激痛が走る。頭の中がかき回された様にグチャグチャで何も聞こえない。歓声は遠のき、意識が遠のく。
そして画面視界が文字で塗りつぶされる。
あれは自動魔素吸収増幅変換器。またの名を魔素コンバータ。通称マギ・ジェネレータ。様々な名で呼ばれるそれは、大気中に空気と同じように無尽蔵に広がるマジカルエレメントを取り込み動力源として使用する装置で、これを搭載することで様々な機械の駆動を可能にし、世界への干渉を可能とする。その変換効率はサイズによって異なるが魔素自体が持ちうる干渉力に対しておよそ一五から最大四〇パーセント。私の知ってるものよりもかなり小型化されているけれど、それは恐らく変換効率を高められる合成素材が開発されたからだろう。魔素の移動を制御する基礎方程式は魔素の量エムを時間で偏微分してそれと高圧縮空気の密度ローを――

「ミサト?」

 ミーナの声にハッと意識が戻る。歓声が耳に響いて眩しい太陽が煌々と照っている。いつの間にかうつむいていた顔を上げると、心配そうにコチラを覗きこんでいるミーナとハルトの顔。

「大丈夫? って凄い汗! 熱でもある?」

 ミーナの手が私の額に当てられる。ひんやりした柔らかい手が熱を奪って気持ちいい。

「え、ああ、大丈夫だよ。なんでもない」
「今日はちっとばかしいつもより暑ぃからなぁ。ずっと外に出てなかったんだから日光に慣れてねぇんだろ。無理はすんなよ? 気分が悪かったら我慢せずに言えよ?」

 声を掛けてくる二人にもう一度「大丈夫」と言って、魔族の心臓部を見つめる。
そうだ、私はアレを知ってる。それもかなり専門的に、だ。急に浮かび上がってきた知識は明確に思い出せるし、今も頭の片隅で次々と浮かんでは消えていってる。
けれどもどうしてそんなに知っているのか、それは分からない。皆アレを心臓だって呼んでいる事から魔素コンバータの事はきっとココでは常識では無いはず。ハルトも「魔力を生み出す」って言ってたから正しく理解もされていないんだろう。あれはあくまで変換器であって「無」から新たに生み出すものではないんだから。
そんな物をなぜ私は知っているのか、理解できているのか。そして私が知っているものが、なぜこの世界にもあるのか。何もかもが私の知る常識と違う世界で、こんなマイナーな物が私の知識と一致するこの不条理。この異常。理解が追いつかない。
何か、何か重大な勘違いを私はしているのではないか。根本的な勘違い。気味の悪い何かが私の中で這い上がってくる。吐き気の及ぼしそうなそれを顰め面で飲み下して深呼吸して落ち着かせる。

「ほう、これは立派な心臓が取れましたな!」

 広場に一際大きい声が響く。パチパチと柏手を打ち、感嘆した称賛の声を上げる誰か。

「いやはや、流石はゴート殿! 小型種とは言え、ほぼ無傷で獲物を仕留めるとは」

 声の主はキツネ、の獣人だろうか。全身が黄味がかった毛並みをしてて、他の獣人たちと違って頭に白い布のターバンを巻いて、白いローブの様な服を肩から下に掛けて着てまるで砂漠の民みたいだ。デップリと突き出した腹はさぞかし肉食獣の腹を満たしてくれるんだろう。シルエットはまるきりタヌキだ。狐なのにタヌキ腹とはこれいかに。ほっそりとしたミーナの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。ミーナが細いのは肉を手に入れられないからなんだけどね。
 釣り上がり気味の細い眼を更に細くして拍手と手揉みを繰り返してて、解体の様子を腕組みして見ていた村長のゴートの方へと歩いて行く。

「おお、リッターか。よく来たな。ちょうどいい、見ての通りたった今魔族の解体を行なっていたところだ。また素材の引取を頼むぞ」
「ええ、ええ! いやホント見事な物ですな。これはきっと高く売れますぞ! ぜひとも良い値で買い取らせて頂きます」

 なるほど、彼がこの村と他の場所とを行き来している商人か。会話を聞きながらリッターの後ろに眼を遣れば、他にも商人と思われる獣人が荷車の傍に立っていた。彼らはたぶんリッターの隊商の一員なんだろう。リッターと同じ恰好をして、商品を気にしてるのか緊張した様子だ。
そして商品が入ってるだろう荷車。パッと見は幌で覆われた単なる大型の荷馬車なのだけれど、よくよく見たらまたおかしい。荷車自体が宙に浮いてる。脚は付いているのだけど邪魔にならない様折りたたまれてる。

「う……」

 また知識が浮かび上がってくる。あれは魔素コンバータを動力源とした垂直離陸式低空移動飛行機。確か愛称は、「スレイプニィール」。そうだ、スレイプニィールだ。熱と水を排出する以外に何もガスを出さない、クリーンな乗り物として化石燃料自動車にとって変わったヤツだ。見た目はまるきり違うけれど、基本原理は同じ。これもまた私の知っている物だ。

「やっぱリッターは良い移動車持ってんなぁ」
「普通は持ってないんの?」
「オイラたちみてぇに長距離の移動しねぇ連中にはあまり縁はねえな。それにあんまり簡単に買えるもんじゃねぇから、王都の連中でもそんなに持ってる奴は居ねぇんじゃねえかな?」
「じゃあ普通はどうやって移動する?」
「だいたいは国や街が所有してる乗合移動車だな。それか車輪の付いた車を馬とか牛とかに引かせて移動するか、ってところか? リッターの移動車みてぇにあそこまで大きいのは普通の商会でも中々お目にかかれねぇと思うぜ?」

 という事は彼は相当成功している商人という事か。言われてみれば確かにやり手の商人っぽい雰囲気を醸してる。今もゴートに対して下手に出ながら早速価格交渉してる。傍で聞いてると人の良さそうな笑顔を浮かべて、時折ゴートを煽ててゴートの要求に四苦八苦してる素振りを見せながらも譲れないところはしっかり主張してる。別にどういう交渉結果になろうとも私には関係ないんだけど、表面と腹の中とで別の事を考えてそうなよく言えば商人らしい、悪く言えば油断できなさそうな人物だ。
しかし。
ゴートとリッターが交渉してる間も相変わらず他の人は緊張しっぱなしだ。表面上は平然を装ってるみたいだけど心臓の鼓動まで聞こえてくる・・・・・・くらい緊張してるのが分かる。誰も荷車には近寄ろうともしてないのにどうしたというのだろう。何だか動きもおかしいし、顔の向きも落ち着かない。時折頭の位置を直すような仕草はまるでデパート屋上の被り物だ。妙だ。

「んー……分かりました! その値段で手を打ちましょう!」
「おいおい、本当に良いのか? 自分から吹っ掛けておいてなんだが、相場よりかなり高い値段だぞ?」
「いえいえ、この村の、引いてはゴート殿のおかげでこれまで私どももだいぶ稼がせて頂きましたからな。たまには還元致しませんと。その代わり、これからも我々どもをご贔屓にして頂きたいものです」
「なるほどな、そういう事か。抜け目ないな。まあいい。これからも俺たちの為によろしく頼むぞ」
「ぜひ! あの、それで例の話なのですが……」

 交渉がうまくまとまったと思ったら、リッターが口をゴートの耳に寄せて何やら密談を始めた。とは言っても丸聞こえなんだけど。
コッチが聞いてるとも知らず二人は話してたけど、リッターがチラチラとこちらを見始めたので私はさりげなく顔を背けた。

「やはりアテナ王国で儀式を実施していた様です。ですが、失敗したとかで躍起になって、わざわざ騎士団まで動かして探しているとの話でした」
「やはりそうか……なら交渉の駒にはなるな」
「という事はやはり彼女が?」
「ああ。とは言っても記憶も失って実際に役には立ちそうにないがな」

 アテナ王国。気になるキーワードが出てきた。一体何を実施したのかはさっぱりだが――いや、誤魔化すのは止めよう。そんな事は分かりきっている。
私は召喚されたのだ。でなければ異世界なんて所に来るはずが無い。いや、神かくしなんてという言葉があるのだから完全に否定してしまうのも危険ではあるけれど、その可能性は高いだろう。そんなファンタジーな出来事なんて有り得るのか、と思わないでもないけれど、有り得ないと否定しまうこともできない。別に悪魔の証明に挑むつもりも無いし。
リッターは「失敗した」と言った。そして探しているとも。ならば本来ならば私は召喚主の場所に現れるはずだったけれども何らかの要因で全然違う場所に召喚され、たぶんその時に記憶も失ってしまったんだろう。
推察するに、ゴートが人間である私を追い出さないのは、少なからずゴートが私に対して何らかの価値を見出しているからだ。たぶん、ゴートは私が召喚された人間であるということに気がついていた。確証は無くとも「もしかしたら」と考えていたんだろう。
交渉の駒。アテナ王国がどんな国かは知らない。でもたぶん人間の国家。そして私は王国が探してまで求める人間。王国が何のために私を召喚したのかまでは推測は無理だ。でも何かを私に求めるつもりで召喚した。そんな人間をゴートは確保したのだ。
言ってしまえば私は人質、か。どれだけの価値を王国が私に見出しているかによるけれど、何らかの譲歩をゴートは引き出そうとしているんだろう。それが村の安全か、はたまた金か。もしくは亜人の国に引き渡す事も考えているのかもしれない。

「何の為に実施したかについてはどうだ?」
「そこまでは……引き続き調査を続けましょうか?」
「いや、あまり嗅ぎ回り過ぎて感づかれても面倒だ。カードの切り方はこちらがコントロールできて初めて価値がある」

 だけどもゴート自身も私の価値を測りかねてる。それは王国が私を何の為に召喚したかが分からないからだ。本当なら私はもっとひどい扱いをされてもおかしくない。でも実際に亜人の中でここまで特に暴力も何もされていないのは価値を損なう境を見極めきれてないからだ。まったく、私はツイてるのかツイてないのか。少なくともミーナに拾われたのは幸運だったと思うけれどもね。
 ゴートはリッターから体を離れ、リッターも荷馬車の方へ戻っていく。

「全員聞けっ! 皆のおかげで今回も無事魔族を狩ることが出来た! 更に幸運にもリッター殿もちょうど居合わせ、食料もご好意で安く仕入れることができたっ!」
「ってことは!?」
「ということは!?」

 ゴートの言葉に周りの皆から囃すような相槌の声が上がった。ゴートは一度間を置いて、グルっと村人を見渡して、ニヤッと笑って宣言した。

「今夜は宴会だっ! 準備にかかれェッ!!」

 一気に怒号の様な歓声が村中に響き渡らんばかりに上がった。所構わず叫ぶもんだから正直耳が痛い。

「やったなぁ。今夜はうめぇモンとうめぇ酒が飲めっぞ」

 ハルトも嬉しそうに尻尾が上下に振ってて、ミーナもたぶん今日は良い物が食べれるからだろう、満面の笑みを浮かべてネコミミをピコピコと動かしてる。可愛い。その姿が見れただけで私もホクホクだけど耳を触りたいけど、残念ながら非常に残念ながら座ってる私じゃミーナの頭まで手は届かない。ならば仕方ない。ついつい辛抱たまらんでミーナの尻尾を撫でてしまい、ミーナに涙目で睨まれたけどそれもご褒美です。
騒ぎながら皆が散っていく。男どもは酒の準備に、女の亜人たちは宴会の準備の為に方方に消えていった。
私もミーナに車椅子を押されて家に戻る。後ろからはミーナの楽しそうな鼻歌が聞こえてきて、目の前だとハルトの細い尻尾がフリフリされてる。ゴートの狙いとか気になる所はあるし、魔素コンバータとか気になる物も出てきて考えなきゃいけない事がまた新たに出来たけど、今日は棚上げしておこう。村人たちの様子からどうせ宴会に参加できないだろうけど、ミーナとハルトの様子からすると少しくらいは宴会のお裾分けを貰えるんだろうと思う。ミーナの料理は美味しいし、特段不満があるわけじゃないけれど、やっぱりたまには肉をお腹いっぱい食べたいと思ってもバチは当たらないさ。

「ん?」

 二人に触発されてか、いつもよりも浮かれ気分でいると妙な予感が走った。予感というか、何というか、何かが鼻についたと言うべきか。どう表現すれば良いか適当な言葉が思い浮かばないけれど、そんな感覚だ。
後ろを歩くミーナの横から何ともなしに後ろをうかがい見る。そこではリッターが笑顔で去っていく村人の後ろ姿を見送ってるだけだ。ゴートの姿ももう無い。というよりもリッター以外誰もいなくなってた。
鼻をヒクヒクさせると何とも言えない匂いがする。臭い。でもそれは匂いとは違う気がする。感覚的なものだからうまく表現できないけれど、その匂いはこびりついたみたいにいつまでも私の頭の中に残っていった。
それは家に帰り着いても結局消えなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その夜は賑やかだった。村の広場を中心としてアチコチで灯りが灯されて、その光は暗い夜空を煌々と照らしてて、皆の騒ぐ声は村外れのこっちまで届いてる。ドアとか窓を開けてたら騒がしくて会話も出来ないくらいだ。とはいっても隙間だらけの荒屋だとドア閉めててもあまり関係ないけど。
私は車椅子に座って、窓辺に陣取ってボンヤリと月を眺めてた。世界は異なっても月は一つで、やたらとでかかったり紅く怪しく輝いてたりしない。恥ずかしそうに少しだけ雲に隠れて、淡く優しく村の騒ぎを害さない程度にしか光らないその姿は何となく奥ゆかしい。
月は良い。眺めてると落ち着く。外の喧騒で心がささくれ立たない程度には眺めてるだけで平穏は保てる。月に雅を感じてかつての留学生みたいに月を見て望郷の念を抱いたり詩を読んだりする風流な趣味はないけれども。

「いやー、美味しかったね。もー食べれないにゃ……」

 ミーナは椅子に腰掛けて満足そうに自分のお腹をポンポンと叩いた。
やっぱり予想通り私たちは村の宴会には参加できなかった。というより参加しなかったというのが正しいか。昼間の様子から見て私が割って入っていけば、たぶん場所は確保できただろうけど、その後の空気はまあ並の頭があれば想像はつく。きっと場の雰囲気は険悪になり、冷たい視線にさらされて飯もまずかったに違いない。なら食材だけこそっと頂戴して家でミーナと食べた方が美味かっただろうし、実際普段お目にかかれない肉料理の数々は美味かった。
意外だったのは、それほどミーナは村人たちから嫌われてなかった事だ。いや、嫌われてはいるんだけれどそれは全員が全員そうというわけではなくて、中にはミーナの境遇を不憫に思ってる人もいたらしい。聞くところによれば、ミーナが食材をもらいに行ったら最初すげなく断られたらしいんだけれど、何人かの人がそっとリッターから仕入れた食材を渡してくれたみたいだ。持ちきれないくらいに大量の肉を抱えて帰ってきた時にはさすがにびっくらこいた。

「すごいお腹だね」
「幸せ……もうこのまま寝たい……」

 もう一個意外だったのは、意外とミーナが大食らいだった事だろうか。手早く調理してテーブルに並べていった数々の肉料理。確かテーブルが埋まるくらいに料理が並んでたと思うんだけど、たぶんそれの八割がたミーナの胃袋の中に吸い込まれていった。このほっそりした体のどこにあれだけの量が入っていったのかは全くの謎だ。ブラックホールでも胃の中に飼ってるんだろうか。
食事の量はたぶん、村人全員に嫌われてなかったっていうのが嬉しかったからだと思う。食欲っていうのはメンタルにも結構依存するし、バクバクと平らげながら食事の間じゅう耳をピクピクと嬉しそうに動かしながらずっと肉を貰った話をしてたし、満面の笑みでマシンガンの様に身振り手振りを交えて話す様はまるで幼い子が一日の出来事を母親に話すみたいで微笑ましかった。
ミーナが嫌われて無くて本当に良かった。月から視線を外して車椅子を動かし、ミーナの傍で耳を触りながらつくづくそう思う。
 何となく感慨深くなってミーナの顔とか髪の毛を撫でていると、扉がノックされた。

「おーいミーナ、ミサトぉ。ちょっと開けてくれぇ」

 ハルトだ。確かハルトは村の皆と宴会に参加してたはずだけど、どうしたんだろうか。
 髪を撫でられて椅子の上でとろけてるミーナに変わって私がドアを開ける。すると、そこには両手に瓶を持った鼠が立ってた。

「どうしたんの、ハルト? 宴会は?」
「まだみんな広場で騒いでるぜ。それよりもせっかくの宴会だ。二人とも一杯どうだ?」

 そう言ってハルトは両手に持ってた瓶を掲げた。なるほど、酒か。こんな日だし、たまにはいいかもしれない。

「どうしたの、それ」
「宴会場に転がってたから持ってきた。二人と一緒に飲もうと思ってコッソリくすねて抜けだして来た」

 ハルトは勝手知ったる感じでテーブルの上に瓶を置くと戸棚からグラスを三つ持ってきて、それぞれに酒を注ぎ始めた。普段勝手にミーナの物を触らないハルトだから、もしかしたらすでに結構酔ってるのかもしれない。全身毛むくじゃらだから分かんないけど。
 ミーナの向かいの席によじ登って駆け付け一杯、とばかりにグラスの中の酒を喉へと傾けてあっという間に飲み干してしまった。もしかして、コイツは結構飲兵衛か?

「っくぁ〜! たまんねぇなぁ! ほれ、ミサトも」

 差し出されたグラスを受け取って少し口をつけてみる。ほんのりとアルコールの上等な香りが鼻孔をくすぐってきて僅かばかりの熱を伴いながらスルリと喉を滑っていく。あ、結構美味しいな。日本酒みたいな味で、度数も結構高めだけど全然気にならない。ハルトの視線を感じて顔を上げれば、瓶を持ってすでに次の杯の準備万端だった。

「中々いい飲みっぷりじゃねぇか。ほれ、もう一杯。ミーナもほれ。せっかくのめでてぇ日なんだしよ」
「でも、私お酒呑んだ事ないんだけど」
「大丈夫だって! ミーナももう十七なんだし、女だからって酒も嗜まねぇのはどうかと思うぜ?」

 ミーナの手に強引にグラスを持たせ、ハルトは「ほれ、ほれ」ってグラスを傾ける仕草をしてミーナを促してる。この酔っ払いめ。
ミーナは初めての酒に戸惑ってるのかグラスの中をじっと見つめて、そして意を決して舐める様にしてチョビっとだけ口に含む。そして少し眼を見開いて感嘆した。

「あ、おいしい」
「だろ? なんたって今回リッターが持ってきた酒ん中で一番高ぇやつだからな。ゴートが飲もうと大切に持ってたのを持ってきたんだぜ?」
「それって大丈夫なん?」
「だーいじょぶだって! どうせ皆酔っ払って気付きゃしねぇよ。今頃もしかしたらゴートが必死で探しまわってるかも知んねぇけどな!」

 陽気な笑い声を上げるハルト。

「それに、ゴートにゃいっつも煮え湯を飲まされてきてんだ。たまにゃこっちも反撃してやんなきゃな。アイツが今頃必死で探してる姿を想像したら余計にうめぇだろ?」
「……ハルトって結構腹黒いんね」
「かっかっかっ! なんだ、今頃気づいたんか?」

 いつにもましてハルトは陽気だ。初めて酔ったハルトを見たけど、コッチが素の姿なのか。まあ、私的にはコッチの姿の方が悪くない。村中が陽気な日なんだし、たまにハメを外してもいいだろうと私も思う。ハルトの言う通りゴートが今頃大切な酒を探して右往左往する姿を肴に飲むのもたまにはいいだろう。

「……もう一杯もらっていい?」
「お? なんだミーナも気に入ったんか? いいぞ、飲め飲め!」

 まだまだある事だし、私ももう一杯もらおう。窓辺に行って月見酒っていうのもよさそうだ。ミーナも気に入ったみたいだし、今夜は三人で心ゆくまで飲んでみようか。良い夜になりそう。
次第に顔を赤らめていうミーナと淡い月を見比べながらそう思った――


 はずなんだけど。

「どうしてこうなった……」

 思わず頭を抱えて日本語で嘆いてしまったのも仕方ないと思う。きっと誰にも責めることなんてできないはずだ。むしろ私が責めてもいいと思う。

「だぁかぁらぁ〜、私らって不満がないわけじゃぁ無いんだよぉ? でもどぉしろっていうのよ? ええ?」

 私の目の前には顔を真赤にさせたミーナ。半眼に開かれたいつもは可愛らしくて私も大好きな眼は完全に座って、向かいに座る私とハルトを睨みつけてる。
右手には酒の入ったグラス。左で首の部分をふんづかまえてさっきから瓶をドン、ドン、とテーブルに叩きつけながら管を巻いてる。もうこうやって絡まれ始めて一体何時間経ったんだろうか。

「ハルトぉ……」

 酔いもすっかり醒めてしまった。一体誰だ、今夜はいい夜になりそうだなんて言った奴は。というか、今私の目の前に座ってるのは誰だよ。

「仕方ねぇだろ……オイラだってミーナの酒癖がこんなに悪いって知らなかったんだよ」
「そこ! 私の話聞いてんの!?」
「は、はい! 聞いてます聞いてます!」

 ハルトは完全に椅子の上で器用に正座だ。酔っ払いミーナに絡まれる度に下僕よろしく背筋をピーンと伸ばしてイエスマンと化してる。

「だいたいさぁ〜、私らって好きでこんな境遇にぃいるわけじゃないっつーの。けどさあ、村中からそっぽ向かれてる状態で一体どおしろっていうわけ? 分かる?」
「いや、まあ……」
「ああ!?」
「はい! 分かります分かります! ミーナは悪くないッス!」
「分かるぅ? 分かってくれるぅ? あ? もう酒がねぇじゃねぇかぁハルトぉ」
「はい! ささ、どうぞどうぞ!」
「んぐっんぐっんぐっ……ぷっはぁ! そりゃぁ確かにぃ〜私には人間の血が入ってますよぉ? 冷徹だとか陰湿だとか世間様でご評判のぉ人間の血が入ってるんだよぉ〜? けぇどぉさあ? 私だって亜人だよぉ? 人間だよぉ?」

 ん?何か様子が変わってきたな。さっきまで逆立ってた眦が今度はショボンと泣きそうになってるしネコミミもへにょ、と垂れ下がってる。

「皆とおんなじ感情があるんだよぉ? 無視されたら傷つくんだよぉ? 村中からさぁあ、すっごい眼で睨まれるんだよぉ? なぁんもしてないのにさぁあ、私が来ただけで陰口叩かれるんだよぉ? みんなで盛り上がってる時にさぁ、ボッチなんだよぉ? 寂しいにぃ決まってるじゃんかぁ……」
「ミーナ……」
「でもさぁ、私はぁお祖母ちゃんといたこの村が大好きでぇ、村のみんなも大好きなのよぉ……ねぇねぇ、ハルトは私の事好きぃ?」

 潤んだ瞳でコッチを上目で見つめてくる。普段から可愛いのに、こんな仕草をされたら我慢できないじゃないか。とは思いつつも、必死で自重する。

「ああ、オイラはミーナのことが大好きだぜ?」
「ミサトはぁ?」
「私もミーナの事が大好きだし、一緒に住まわせてくれてるんを感謝してるんよ」
「ふふ、ありがとぉ……ハルトとミサトの事私もぉだぁい好き……だからぁ私は今はぁ寂しくないんだよぉ……」

 そう言いながらミーナはテーブルの上の空のグラスとかビンとかを押し倒しながら突っ伏した。慌てるハルトを他所に、私に向かって手を伸ばしてきて、私の腕を撫でていく。

「ミサトはあったかいねぇ……一緒に居てくれてありがとぉ……」

 そして静かに寝息を立て始めた。テーブルに顔を押し付けたまんま寝苦しそうな体勢だけど、気持ちよさそうに幸せそうな顔でスースーと寝息を立ててる。
ハルトと二人で顔を見合わせ、私たちは深々と安堵の溜息を吐いた。


 そこから私とハルトの二人で片付けを始めた。
ハルトがミーナを起こさない様にベッドに寝かせ、私が食器を流しで洗い物をしていく。全部終わったのは結局すっかり日付が変わろうかという頃だったけれど、私もハルトも終始無言で、村の方でも宴会が終わったんだろう。片付けの音とミーナの静かな寝息だけが家の中に響いていた。

「ふぃー、やった終わったな」
「お疲れ様。遅くまでありがとう」

 私が礼を言いながら振り向くと、ハルトは大儀そうに自分の肩を短い腕で叩いて、そしてテーブルの椅子を家の外に出してるところだった。

「どうだ? 最後にもう少しだけ二人で飲まねぇか?」

 ミーナの飲み残した酒瓶を掲げて外を指さしてくるハルトに、少し考える。
最後は全然飲めなかったし、まだ私自身も飲み足りなさはある。飲み始めてミーナがすぐに管巻き出したから酒を楽しめなかった。一日の終りにゆっくり静かに月を見て飲んで、今度こそ良い夜にするのも悪くないかな。
洗いたてのグラスを二つ膝の上に置いて車椅子の車輪を回して外に出る。
最初に見た時にはまだ低い位置にあった月は、今はもう随分と高くなっててほぼ真上に見上げないと見えない。雲に微かに隠れてただけの優しい月もそのほとんどが薄い雲に隠されてしまって、月明かりが降り注ぐ事は無くなってた。
ハルトのグラスに注ぎ、代わって私のグラスにハルトが酒を注いでくれる。酒瓶にあまり残って無かったので、二人のグラスに半分くらいずつ注いだところでちょうど無くなった。

「乾杯」

 どちらともなく静かに告げてグラスを軽くぶつける。氷が無いのが残念だ。あれば氷が奏でる音色も聞けたのに。

「……やっぱ、色々と溜まってたんだな」
「……そうだね。むしろ今まで良く我慢してたと思う」

 心の底からそう思う。今までミーナは別に愚痴を零さないなんて事は無かったし、ちょくちょく私も聞かされてたけど、それはほとんどが物があまり売れなかったとか、獲物があまり穫れなかったとかそういった類だ。村の人の事には触れなかったし、自分の境遇について不平不満を全く漏らさなかった。
偉いと思う。我慢強くて、辛くても頑張ってとても偉い子だと思う。
けど、愚かだ。ミーナは愚か者だ。私から見てもそんなに我慢しなくてもいいのにって思うくらいに我慢して、でもそれをずっと自分の中に溜めて溜めて。
ミーナは優しすぎる。勝手に見ず知らずの、しかも人間である私を拾って家に住まわせて、何もできない私の世話をして、それでいて寂しさを私に隠そうとするくらいに。
いや、ミーナが寂しいのは私にも分かってた。口に出さないだけで態度を見れば分かってた。わざわざ狭いベッドの上で一緒に寝るのも、一緒に食事をするのも、なるべく私と一緒に居ようとするのも全部寂しさの表れだ。
何より、嫌われ者は寂しい。これが自分で何かやらかして嫌われてるんなら自業自得だって突き放すところだけど、ミーナの孤独の原因は自身の在り方に因ってる。ミーナ自身はとてもいい子で、本来なら皆に好かれて然るべき性質なのに純粋な亜人でも無い、純粋な人間でも無いという産まれた時から定められた性質で嫌われてる。世界のどこにあっても疎外され、疎まれ、排除される存在。世界の嫌われ者。そうであって寂しくない生物なんているのだろうか。
だから私はミーナの寂しさに気づいてあげないといけなかった。
――私も世界の嫌われ者だったのだから

「え?」
「ん? どうしたんだ?」

 その思考につい声を上げてしまい、怪訝に声を掛けてきたハルトに「何でもない」と返して、ハルトも「そうか」とそれ以上に追求はしなかった。
どうにも今日はおかしい。夜空を見上げながら考える。色んな知識が浮かんできたり、私の意思とは別に無意識に妙なフレーズが頭を過ぎったりと、まるで別人が私の中にいるみたいだ。
記憶が戻ってきている兆候なのかもしれないけれど、何だか気味が悪い。そして少しだけ怖い。
もし、記憶が戻ったら、今の私はいなくなってしまうんじゃないだろうか。昔の私が何をしていたのか、どうしてそんなにも専門的な知識を持っているのか興味が無いと言えば嘘になるけれど、その実、記憶なんて別に戻らなくてもいいんじゃないかとも思ってる。
今の生活に不満は無いし、ミーナもハルトも居てくれてる。ミーナに迷惑を掛けてるのは心苦しいけれども別にそれは記憶が戻っても戻らなくても変わらないわけで、思い出したからってコッチの生活の常識が分かるわけでも無い。結局はミーナやハルトに教えてもらい、世話になりながら生きる事になるんだ。
それに、リッターとゴートの会話の事もある。王国が私を欲していて、王国にとって必要な情報を記憶を取り戻した私が持っているのならば――
思い出してしまうことで今の生活が壊れてしまうなら、ならば別に記憶なんて戻らなくったって構わない。

「ミーナもずっと寂しかっただろうに、手もずっとミーナはオイラたちに向かって差し出してたっていうのにな……なのにオイラはずっと見ない振りを続けてたんだよなぁ」
「ハルトが悔やんでるのはもう十分ミーナに伝わってるんと思う。大切なのは、今続けてる行動をこれからも続けてく事だと思いますんです」
「そう……だよな……分かってるんだけどなぁ、でもなぁ……」
「できないんの? そんなに難しい事じゃ無いんと思うだけど」
「当分はできる事は出来んだよなぁ。けどよぉ……」

 ハルトは何かを言いあぐねてる。ミーナの傍に居続けるのはそう難しいことじゃないと思うんだけど。と、昼間のハルトとの会話が頭を過ぎった。

「もしかして、昼間の話?」
「……ああ。実はな、もうすぐこの村を出て行こうと思ってんだ」

 ……やっぱりそうか。
ミーナの傍に居たいけれど、でもそれは自分の夢を諦める事になる。昼間語ってた夢はかなり壮大で、もし本気で実現したいって思ってるなら生半可な覚悟じゃできないだろうと思う。そして、仮にハルトの人生全てを捧げたとしても実現できるかどうかは分からない。きっと可能性は低いだろう。時間はいくらあっても足りないくらいだ。たぶん、ミーナが居なかったらもうとっくに村には居なかったのかもしれない。

「ミーナは……どうするの?」

 愚問だ。ハルトの意思はもう決まってる。でなければ、言いよどみもしなければ迷いもしないだろう。

「置いてく事になるな……」
「そう……」
「責めねぇのか?」
「責めて欲しいんだったら他の人を当たって。悩んで出した結論だしょ? ならハルトはハルトのやりたい様にすればいい」

 目標を実現するためには、他の何かを犠牲にしないといけない。私はそう思う。何もかも両立できるんであればそれが一番いいのは勿論だけれど、それは目標が高ければ高いほど難しくなる。能力には限りがあるし、ハルトも私も手は二つしか無い。何と何を選ぶか、それとも両手で抱えるのか、何かを成し遂げようとする時には私たちは絶対に取捨選択を迫られる。
大切な何かを選び、大切な何かを諦める。記憶のない私には推し量ることは難しいけれども、それはきっととても辛い事だと思う。
ハルトは黙ってグラスの中の酒に浮かぶ自分の顔を眺めてた。ユラユラと揺れる水面で揺れる自分。それをハルトは一気に飲み干して大きく息を吐き出して、口を開いた。

「なあミサト、頼みてぇことがあるんだけどよ、聞いてくれるか?」
「……何?」
「オイラが村を出て、もう一度ミーナと会う時までミサトにはミーナの事と一緒に過ごしてやってほしいんだ。アイツの事だ。きっとオイラが今から村を出るなんっつっても何も言わずに笑顔で送り出してくれるに決まってる。行くなとも寂しいとも口にしねぇ。アイツはそういうヤツだ。だからこそオイラも村を出るのを迷った」
「うん……」
「オイラは……ミーナの事が好きだ」

 ハルトは顔を上げて私の顔を見て、そう告げた。

「ミーナの事が好きだ。好きで好きで、ミーナから離れたくねぇ。オイラが世界を変えてぇって思ったのもミーナが不憫で仕方ねぇからだ。理不尽な環境に置かれてるミーナを救い出してやりてぇ、人並みの幸せを与えてやりてぇって思ったからだ」
「でも、今のハルトには力が無い」
「ああ、そうだ。今のオイラにはミーナを守ってやる力も救い出してやる力もねェ。一緒にいてアイツの過ごしてやることしかできねぇ。ミーナはそれだけで良いって言ってくれるかもしんねぇけど、それじゃダメなんだ。オイラがダメだ。胸を張って一緒になってくれなんて言えねぇんだ。だから、オイラは行かなきゃなんねぇ」
「自分の為に、ミーナを置いていくんだ」
「ああ。けどこれは譲れねぇ」
「ミーナにまた寂しい思いをさせるんだ」
「でもミサトがいてくれるだろ?」

 そう言ってハルトは笑った。表情は分からないし、いつもみたいに尻尾の動きも無い。でも何となく私はハルトが笑ったように思った。

「オイラが居なくなったら寂しがってくれるだろう。てか、そうであって欲しいんだけどな。少なからずそれくれぇの自負は持ってるさ。けどよ、それでもミサトが居てくれたらミーナもすぐにオイラの居ない寂しさを忘れ去ってくれる」
「私にハルトの代わりはできないんよ」

 私がそう反論すると、ハルトは笑って私の肩をバンバンと音が立つくらいに強く叩いて、酒を飲みかけていた私は思わずむせた。口元に零れた酒を腕で拭いながら恨みがましく見上げると、ハルトは笑みを濃くして、私を諭すように語りかけた。

「大丈夫だって。オメェはもうそれくれぇにはミーナの心の中に住み着いてっから」
「だとしても……」
「だーっ! オメェさっぱりしてる性格だと思ってたけど意外としつけぇんだな!」
「これは大切な問題だから」
「だったらよ、オイラが居なくなってもミーナが寂しく思わねぇくれぇにミーナと一緒にいてやれ。いっぱい話をしろ。いっぱい笑っていっぱい泣け。そんでアイツに笑顔をいっぱい渡してやってくれ。それを今、オイラに約束してくれ」

 ハルトは笑ってるけど、私を見つめるその眼差しは真剣だ。酒を飲みながらだけれど、ハルトの黒い瞳からミーナに対する想い、残していく無念、そして自分がいない間を託そうとする私への期待と僅かな嫉妬が感じ取れた。そんな気がした。
ならば私はそれに応えなければならない。男がこんな眼をして私に頼み事をしてくるのだ。応えてやらねば女が廃るというものだろう。

「分かった。約束する。ハルトが帰ってくるまで私はミーナと一緒にいて、いっぱい笑う」
「……ありがとな。頼むぜ」
「むしろ帰ってきてもミーナが私から離れないくらいに私に惚れさせる」
「それは勘弁してくれ」

 そう言って私とハルトは二人笑ってグラスを傾けていった。
更に夜は更けて月を隠していた雲は流れていた。真ん丸の満月は優しく光り、今度こそいい夜だ、と私は本気で思えた。

「そんじゃ今晩はそろそろお開きにすっか」

 よっ、と声を上げて椅子から飛び降りて、ハルトはさっさと椅子を家の中に片付けていく。私は彼の覚束ない足取りを見て、それが何だかよちよち歩きの赤ちゃんみたいで何となく微笑ましく思えた。
ハルトはベッドの方へフラフラしながら歩いて行って、ベッドの上で相変わらず穏やかな寝息を立ててるミーナの髪を撫でた。大きな鼠が、パッとみ人間のミーナの面倒を見てるのは珍しい姿ではあるけれど、でもミーナを見るハルトの眼差しは真摯で、そして優しさに満ちてる。

「なんか……ハルトってミーナのお兄ちゃんみたい」

 ハルトがミーナに接する態度は想い人というよりは兄妹だと思う。愛なんて私には理解できないし、家族の思い出も無いから類推することもできないけれど、これはきっと家族愛なんだろうと思う。

「そっかぁ?」
「うん。何となくそう思った。私に兄妹がいたのきゃは分からないけれんど」
「できればオイラは恋人が良いんだけどなぁ」
「ならいい男になって帰ってくればいい。ハルトには女が惚れる色気が足りない」
「鋭意努力させてもらうぜ」

 苦笑いをハルトは浮かべると、鼠らしいやや尖った爪の先で自分の頬を掻いた。

「じゃあな。ミサトももう寝ろよ?」
「そういうところが兄貴みたいだ」

 そうやり取りしながらハルトはテーブルまで戻ってきた私の隣を通り過ぎ、私の背中越しにドアが開く音がした。

「ハルト」

 私はドアに背を向けたままハルトを呼び止めた。

「私には家族は居なかった」
「ミサト」
「でも、今はここが私の家だと思ってる。そしてミーナは私の家族。だから、家族は私が守るから」
「ああ、期待してるぜ?」
「そしてハルトも私の家族だから」
「……」
「ハルトは一人じゃない。私がいる。ミーナがいる。だから応援してるから。ミーナの事は私に任せて、ハルトは夢を追いかけて、いつかミーナと私を迎えに来てほしい」

 ミーナが居たから私は今こうして生きている。ハルトが居たからミーナは笑っていられる。寂しさは感じても、孤独は感じないでいられるんだ。
人は一人じゃ生きられない。それは人間でも亜人で一緒だ。誰かが居てくれるから、傍には居なくても誰かが想ってくれるから、誰かを想ってくれるから前を向いていけるんだと、私はそう思う。You'll Never Walk Aloneだ。
ハルトはこれからきっと一人で夢に向かって行くだろう。でも、もし私やミーナがその原動力になれるのなら、もしハルトが辛くなった時にミーナや私の事を思い出してまた頑張ろうと思えるのなら、私がここに召喚された意味はきっと有って、歩けもしない私がハルトに出会った意味も有ったと信じられる。

「ありがとな」

 一言だけハルトは私の背に向かって返事をした。顔や仕草は見えないけれど声色には照れを多分に含んでて、たぶん今頃また癖のように手の爪先で自分の頬を掻いてるんだろう。
 ギシ、と床板が軋んだ。ゆっくりとした足音が近づいて、私の肩に手が触れた。
その手は暖かくて、優しさに満ちて、それでいて力強くもあった。その重みでハルトの気持ちが分かったような、そんな気がした。

「え?」

 視界の隅に入ったハルトの手を見て、私は声を挙げた。灰色の短くも深い毛に覆われて、動物らしい硬そうな爪や短い指の手はそこには無くて、細く長い柔らかな印象の、私の様な白い指がそこにはあり、温もりが一枚のシャツ越しに伝わってきた。
一瞬呆けて、そしてハッとして振り返る。そこには後ろ手に私に手を振りながら短い足で去っていく、いつも見てる鼠の獣人の姿があった。

「おやすみ」

 最後にそう言い残してドアが閉められて、私はポカンとさぞマヌケな顔を浮かべて見送るだけだった。
今見たものは幻だったのか。その判別さえできないくらいに胡乱な思考を飲んでいた酒のせいにして、私はベッドの中に潜り込む。隣にいるミーナにしがみついて、彼女の温もりを享受して、それでも肩の温もりは未だに残ってた。それは私が眼を閉じて意識が少しずつ遠のいていっても最後まで居座り続けていた。

――いい夢が見れそうだな

 そう思いながら幸せな気分と共に私は微睡みの中に消えていった。
けれども。
 幸せな気分は突然の声で終わりを告げた。

「――やっと、見つけました」









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