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(c)新藤悟 2005 - All Rights Reserved




――7. 



「さて、と……」

 ミサトは一息吐いたとばかりに首を回してコリを解すと、右手で顔を拭って濡れた手を振るった。赤い飛沫が血溜まりに跳ね、波紋を作った。
それでも手にこびり付いたものはボロボロになって汚れた服の、比較的綺麗な箇所で拭う。元は白に近い色の服だったが、すでに元の色はよく分からなくなっている。もうこの服はダメだな、と思いながら、力なく横たわったままのコウリの元で膝を突いた。

「待たせたな」

 小さく喉を鳴らしてコウリはミサトの声に応える。
確かこの姿でも話していたはずだったが、と思いながらコウリを観察していると、嵌められている首輪が目についた。
暗闇に仄かに光る首輪。しかしよく見ると、光を発しているのは首輪そのものではなく、宙に浮かび上がっている文字。
これが原因か、とミサトはコウリの首元で光を発しながら廻っている文字に手をかざし、じっと見つめる。
無言。
しばしその体勢のまま高速で思考を巡らす。と、急に首輪に手を触れて文字列の中に何やら指先で書き込む仕草をして回転する文字をつかむ。
そして文字を引きちぎった。
ふう、とため息。つかまれた文字列は光を失うとスゥと光の粒子となって消えていく。

「どうだ? 動けそうか?」

 ミサトの言葉に応える様にコウリは体を起こし、まるでノビをするかの様に前脚を前に伸ばして「グルルル」とうなった。

「問題ありません」
「そっか、そりゃ良かった。魔術錠の解錠は久々だったけどうまくいって良かったぜ」
「尊主は……記憶を取り戻されたのですね?」
「まあな。ずいぶんと遅くなっちまって悪かったな」
「いえ、尊主が大事無いようでして何よりです。むしろこちらこそお守り切れなくて申し訳ありません」
「気にすんなって。で、まあなんで俺の事を尊主って呼ぶのとかお前はナニモンなのかとか色々とお前に聞きてぇ事があるが、それよりもまずは全部片付けてしまわなきゃな。こっちでさくっとやっちまうからコウリ、お前はしばらく休んでろ」
「しかし……」
「お前が何者かは知らねぇけど、見たところ魔素で体が構成されてんだろ? なら今の今まで魔素の取り込みを制限されてたんだからまだ十分に動けねぇはずだ。ま、後でしっかり働いてもらうから今の内に少しでも体力を回復させとけ。
 ああ、そうだ。ただ休んでるだけなのが嫌なら、ミーナの、ミーナの居場所を探してくれ。ショウリ、だったか? あの蛇の居場所でも良い。ただし、見つけても場所を私に教えるだけで良いからな。無事な事を確認できたら無理に助けようとしなくていい」
「……ありがとうございます、尊主。では申し訳ありませんがしばし暇を頂戴致します」

 虎が頭を下げ、足元に影が広がっていく。その中に沈んでいきながらコウリはミサトの顔を見上げた。

「ではご無事で」
「誰に言ってやがる。さっさと行け」

 ミサトの言い草にコウリは困ったように口端を上げて笑い、影の中に消えていった。
 コウリが完全に見えなくなるのを確認し、ミサトは紅い髪を掻き上げ、独り言を呟く。
「それじゃコッチも行きますか」

 牢にしては広い地下牢の外にミサトは初めて踏み出した。
とは言っても、牢を出た瞬間に世界が変わる、なんてことは無い。いきなり景色が様変わりして豪奢な装飾や美術品の類が出迎えてくれるわけでもなく、無骨な石造りの壁が牢屋から連続的に続き、牢の中と外を隔てていた出入口の格子ドアを通り過ぎただけにすぎない。だが、精神的な区切りとして牢から出ることに意味があるとミサトは思う。囚われの身で在り続けるのは、記憶力の使い方を思い出した今でも、むしろ記憶を取り戻したからこそ世界の奴隷であった昔を思い出して気持ちが良いものではなかった。
牢を出てすぐにある、螺旋階段を登り始める。久々で空間魔法で脚を動かしているのでまだ感覚に齟齬が残っている。躓いて転ばないようにミサトは気をつけながら、ダッカスの逃走の証である血の跡を踏みつけながら一段一段登った。

「しっかし、どんだけ深くに作ってあんだよ」

 頭上を見上げれば、どこまでも続く螺旋の渦。階段はグルグルと回りながら絶え間なく続いていっていて終わりが見えない。それでも登っていればいつかは終わりが来る。そう考えながら、鼻歌混じりにミサトは脚を動かした。
だが不意にミサトは違和感を覚えた。一瞬だが、空気中の魔素が励起した感覚だ。それは極々わずかな時間で、また感覚自身も微小。普通なら気にせず通過してしまうところだが、今回は感じた違和を裏付ける証拠があった。
階段の上を点々と落ちていた血の跡。戯れにそれを踏みしめながらミサトは登っていた。踏めば当然跡は潰れたように滲むわけで、綺麗な円形だったそれはミサトが踏むことで薄く不恰好に引き伸ばされていた。
ならばまだ通過していない目の前の階段上の跡は綺麗な落下痕になるはずだが、今ミサトがまさに踏みしめようとしていたそれは、すでに踏みつけられた様に薄く伸びていた。

「ここにも魔術仕込んでやんのか……あんニャロめ。面倒くせぇ事しやがる」

 恐らくは万一の時に逃走を防止するための物だろう魔術を仕掛けたカブラス――もしくはイズールかもしれないが――に内心で悪態を吐きつつも、ミサトは眼を閉じて集中する。

「解析……完了っと。解呪ディスペル

 再び解呪のコードを口にして、階段に掛かっている魔術の効果を無効化する。
同時にガラスが割れる様に眼の前の景色が崩れる。それも粉々に。
励起した魔素は急速にその意味を失い、空気の中に溶け込んでいく。
ミサトの前に延々と続いていた階段は突如として姿を消し、そしてミサトの前に一枚の扉が現れた。
――たぶん、これが地下からの脱出口ってところか。
現れた扉のノブを手にし、ミサトは腕に力を込めるが、一度その体勢のままフリーズ。一瞬の逡巡を経て、ミサトはその扉を勢い良く押し開けた。
途端、ミサトの視界は夥しい数の矢で埋まった。

「手を休めるなっ! 撃てぇっ!!」

 ミサトがドアを開けるのと同時に待ち伏せていた兵士たちから矢が放たれる。
一本放てばまた一本。カブラス領主軍の兵隊長の号令に従い、優秀な部下たちが寸分乱れぬ精度とタイミングでミサトを射抜こうと弓を引く。びっしりと間隔の詰まった矢は、普通ならば逃げられるはずもなく、全身を穴だらけにしてしまっただろう。それだけの練度がこの部隊にはあった。
だがそれもミサトには意味を成さない。

「人ひとり殺すのに大層な歓迎だな」

 矢は全て一本残らずミサトに辿り着く前に地面へと落ちていく。カランカランと乾いた音を立てて豪奢な大理石の床に転がる。
ミサトの無事な姿を見て誰もが言葉を失った。弦を引く手を止め、弓を番えたまま動きを止めてミサトを凝視。

「手を休めるなっ! 弓を放てぇっ!!」

 いち早く復帰した隊長が叫ぶ。その声に自分を取り戻した兵士たちが緩めた弦を再び引き絞る。
だがそれよりもミサトの方が早い。

「これは返すぜ」

 床に転がった、先ほど放たれた矢が一斉に宙に浮き上がる。数秒前にミサトに向かってきていたそれらは、クルリと矛先を変えて放った兵達の方へ鏃が飛んでいく。

「く、空間魔術師っ……!」

 魔法に詳しい兵の一人が叫ぶ。だがその叫びが助けになることは無い。
 一人の女性に向けられた敵意は全て自分たちの元へ帰っていく。
腕に突き刺さる者。脚を貫かれる者。ミサトの精密な制御の元で放たれた矢は、兵達の鎧の継ぎ目を正確に撃ちぬいていく。

「ぐああああああっ!!」
「た、助けて……」
「痛ってぇ、痛てぇよぉ……」

 弓兵たちが悲鳴を上げる。自分たちの矢で撃ち抜かれた彼らはみな倒れ伏し、血と苦痛の声を撒き散らして床に転がっていく。
瞬く間に作り上げられる戦場の空気。白い床は血に濡れ、領内で最も安全なはずの城は今最も危険な場所と化していた。

「くっ……怯むなっ! 剣士隊前へ出ろぉっ!! 奴は魔術師だ! 接近してしまえば何もできんっ!!」
「どんだけ城内に兵士を入れてんだよ……」

 いくら城とは言え、屋内は屋内。当然廊下の幅も城下の町みたいに十数メートルもあるわけでは無いし、城内に入れる兵士の数も限られているはずなのだが、すでに廊下を埋め尽くした弓兵に加えて、付近のドアから準備を終えたらしい剣装備の兵士が次から次へと湧いて出てくるのを見てミサトは呆れた様にため息を漏らした。 貴族様らしい豪華そうな美術品が廊下で見せびらかすように置かれているのだが、通路じゃなくてココは鍛錬場でも兼ねてるのだろうか。見れば兵士だけでなく、雇われたのであろう、装備が他と異なる傭兵らしき人間もいる。これだけの数が逃走したダッカスの呼びかけでこの短時間に城内に集まったのだとしたら大したものだ。
呆れた様な感心した様な態度でミサトは肩を竦めた。だが感心しているばかりでもいられない。どれだけ数を揃えようと戦力の面でミサトの前では大した障害には成り得ない。成り得ないのだが、時間を稼ぐという意味では厄介だ。というよりも面倒くさい。
とは言え、これは考え様によってはいい機会だ。ミサトは剣を構えて自分を警戒する兵士たちを見て考える。後から後からちょこちょこと兵士が出てくるのも邪魔臭いし、ここなら一気に戦力を削ぐことができる。その上、城内の事をミサトは把握出来ていない。カブラスやリッター、それにダッカスがどこにいるのか探し出す必要がある。
ミサトは決めている。絶対に殺す。何があっても、どこに逃げようと必ず殺す。世界の果てまででも追い詰めて殺す、と。その為にも奴らの居場所を見つけなければならず、だが城内はそれなりに広い。となれば誰か知っている人間に聞くのが近道で、今、目の前にこれだけの人間がいれば、一人くらいは居場所を知っているだろう。
なら、さっさと尋問して聞き出す為には目の前の邪魔な奴らを迅速に早速に敏速に蹴散らす必要がある。そう結論付けて、そのための一歩をミサトは踏み出した。

「どけ」

 兵士たちにとっては声を掛けられただけ。空気の振動が鼓膜を震わせて、しかし当然ながら兵士たちが言われただけでどくはずは無い。しかし、彼らはミサトが通る道を開けさせられた。
隊列を成して廊下を何重にも塞いでいた兵たちの体が一斉に宙に浮く。床から脚が離れ、誰もが困惑し喚き、理解の及ばない自体に恐慌に陥る。その中でただ一人、床に脚を突いて、楽しげに口を歪めている少女。彼女を見て、彼らは皆同時に悟る。これは――

「ま、魔女の仕業だ……!」

誰かが震える声で呟き、ミサトと兵たちの視線が交錯する。同時――

「がはっ!?」

 宙に浮いた彼らの体が壁に叩きつけられる。数メートルもの高さ――不幸な者は十メートル近い高さ――で吹き飛ばされた様な勢いで固い壁に全身を打ち付け、重い鎧を纏った彼らは急速に落下。熟練の兵でさえ短時間での二度目の衝撃に受け身を取ることは適わず大部分が意識を刈り取られた。
 積み上げられる惨状。ただでさえ広くもない廊下が兵たちの横たわる体で埋まっていく。裂傷こそ剣士隊に少ないものの、意識をかろうじて保った兵士も腕や脚に骨折などの重症を負っていて、ミサトの前に尚も立ち塞がろうとするものはいない。

「ば、バケモノだ……」

 誰かが怯えた声で呟く。それはこの場にいる全員の声でもあった。兵たちの誰もがかろうじて動く腕や脚でもがき、ミサトの視界から少しでも外れようと逃げ出す。

「ふざけんじゃねぇぞ、魔術師風情がっ……!」

だが一方でミサトの前に立ち塞がる者がいた。鎧のデザインが違うからたぶんダッカスと同じ傭兵だろうとミサトは当たりをつける。
立ち塞がったのは身長が一九〇センチはあろうという巨体に、それに見合った戦いを生業としている者らしい引き締まった筋肉を持った男だ。もみあげから顎下まで続く濃いヒゲのせいで荒くれ者という想像する傭兵と同じ印象をミサトに与えた。
彼はベテランの傭兵だった。幾重という戦場を駆け抜け、魔術師を相手に戦い、共に戦った経験もある。その彼の持つイメージは、魔術師は一撃の威力はあれども脆弱。壁役が居れば大打撃を敵に与えられるが、単騎では戦場に脚を踏み入れることさえ不可。不意打ちには持って来いだろうが、幾人もの兵士が入り乱れる前線においては役に立たないと考えていた。その考えは常識で、故に大部分の魔術師は後方にしか配置させない。
戦闘の主役は白兵戦で、魔術師など臆病者に過ぎない。そんな魔術師ごときが自分を地面に這いつくばらせた。それが男のプライドを痛く刺激した。
幸いにして初撃によるダメージは微小。壁に打ち付けられた際も別の兵士がクッションになり、従って地面への落下時も受け身を十分に取る余裕があった。
彼は彼一流の構えから剣を振るわんと床を蹴った。彼我の距離は約十メートル。彼の実力であれば三歩で間合いに入る距離だ。
接近すれば魔術師など恐るるに足らず。兵隊長も叫んだこの事実は魔術師を相手取る時の定石であり、また事実。だから男が二歩目を踏み出した時にもミサトが何の詠唱もしていない事を確認した時、彼は勝利を確信した。
だが彼の脚は止まった。手に持っていた剣を床に落とし、胸の辺りを抑えて突如として苦しみだした。
膝は震え、半開きの口からは苦悶と唾液がだらしなく滴る。眼は大きく見開かれて血走り、しかし鉄の意志を以てミサトを射抜く。

「て、めぇ、なに、を……」
「三つ聞きたい事があるから答えやがれ」

 途切れ途切れの男の声を遮り、ミサトは尋ねる。

「一つ目。アンタは数日前にやった亜人の村の襲撃に参加したか?」
「へ、なに、を、言い出すかと、思、えば」
「どっちだよ? 早く答えろよ、ダンナ」
「ああ、参加した、ぜ? それ、が、どうか、したか?」

 男は精一杯息を吸いながら不敵に笑ってみせる。
ミサトは笑みを消し、男を見据えながら尚も質問を続けた。

「別に。二つ目だ。ダンナ、アンタに家族は居るか?」
「この、歳に、なって、こんな生業、してる野、郎に、居るか、っつうの」
「そっか。それを聞いて少し安心したぜ。なら最後の質問だ」

 その前に一呼吸。瞬きを一つして再度口を開く。

「アンタ、カブラスとリッターが今この城のどこに居るか知ってるか? 知ってるんならさっさと白状してくれりゃ助かるんだが」

 ミサトは平素を装っていたが、その声に嘆願にも似た感情が混じるが気づくものは居ない。男は顔を真っ青にしながらも強気に笑ってみせた。

「はっ! 知、らねえ、な……知ってて、も、誰が、テメェなんぞ、に、雇い主の情、報を漏らすかよ……金で雇い、主をコロ、コロと変える稼業だが、よ、義理くれぇは通す主義だぜ、俺は」
「そっか、なら……」

 回答に短い返答。ため息を吐きながらミサトは男を視界から外し、眼を閉じて高い天井を仰いだ。
そしてスウッと息を大きく吸い込み、眼を開け、男に命じる様に言葉を紡いだ。

「死ね」

 男の心臓が握り潰された。
一瞬で男は絶命し、重力に従って床に叩きつけられ、それきり動かなくなる。何が起こったのか、それは男も最後まで理解できなかったし、周囲は言わずもがな。ただ、ミサトが何かをしたこと、そして彼女が一瞬で自分たちの命を簡単に奪えることだけを理解した。
 男の亡骸にわずかに瞑目。苦悶に近い表情を刹那の間だけ浮かべて、だがミサトは笑顔を見せてまだ生きている兵たちに向かってこれみよがしに声を上げた。

「さぁて」

 一人ひとりの眼を見ながら、値踏みしていく。

「次はどいつの心臓に聞いてみるとすっかなぁ?」

 ペタペタと足音をさせながら、怯えた視線を向けてくる兵士の間を縫っていく。兵士たちは皆一様に顔を背け、ヒタヒタと迫る足音に怯え、恐怖し、自分の傍を通り過ぎて声なき安堵の声を上げる。

「アンタは知ってそうだな」

 そう言ってミサトの眼が捉えたのは、先程まで指示を出していた兵隊長の男。尻餅を突いて折れた脚をさすって痛みを堪えていたが、ミサトの姿を認めると同時に体を強ばらせ、傍に転がっていた剣を握って切っ先をミサトに向けた。

「し、知らん! 私は何も知らんぞ!」
「アンタの口には聞いてねえよ」

 ベキン、と音がした。男が音の方向を恐る恐る見遣る。
剣を握った腕の方。だが腕は健在。まっすぐと、傷はあるが健全な状態で存在している。視線を上へ。手のひらがあり、柄を握る五本の指はそれぞれ異なる方向へ向いて――

「ぎゃあああああああああああああああっ!!」
「で、どうだ? アンタが敬愛するカブラス様はどこにいるんだ?」
「う、上だ! 上の階にいるはずだ!」
「んな事は分かってんだよ」

 ボキン、と兵隊長の残っていた無事な指があるべき方向と逆に向けられ、廊下に絶叫が木霊する。

「や、止めてくれ! お願いだ! な、何でも教えるから、頼むからや、止めてくれ」
「ならさっさと言えよ。俺は気がそこまで長くねぇんだ」
「た、たぶん四階の応接間だ! 商人も一緒だったからま、間違いない! いつ、いつもカブラス様は客が来た時はその部屋を使っているから今回もきっとそうだ!」
「そっか。あんがとな」

 ミサトが礼を言うやいなや、兵隊長の指が動き始める。耳を劈く悲鳴が響くが、その声が聞こえないかの様にミサトは笑みを貼りつけたまま指を動かしていき、やがて本来の形へ指の位置が戻った。
兵隊長は指が自然な形に戻ったのを見て、痛みに涙しながらも心の底から安堵の表情を浮かべるが、今度は体全体が宙に浮き始めた。
涙が零れそうな表情で兵隊長はミサトを見て、ミサトはニタリと口を歪めた。

「俺はこの城の構造に不慣れなんでな。ついでだ。アンタが案内してくれよ」

 兵隊長の顔が絶望に染まる。だが、先ほどの傭兵が突如として絶命した様を見て拒否などできようはずも無い。理解できない存在。魔女。悪魔。様々な言葉がミサトを見て思い浮かぶが、今の感情は感謝。指だけで済んで、命を取られなくて良かった。ガタガタと震えながらも、兵隊長は大きく頷いた。

「んじゃ急いで行くか……ああ、そうだ」

 兵隊長を引き連れ、死屍累々の様相の兵達の視線を浴びながら廊下を通り過ぎて奥の階段に一歩目を掛けた時、思い出したようにミサトは振り向いて兵達に告げた。

「先に言っとく。早くこの城から逃げた方がいいぜ? じゃねぇとアンタらの安全は保証しねぇからな」










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