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(c)新藤悟 2005 - All Rights Reserved






-16-




朝日が昇り始める。山間から少しずつ太陽が顔をのぞかせ、夜から朝へと切り替わっていく。空は青く、森は緑に、道路は土色に。黒一色からそれぞれが自らの色を取り戻し始める。
スピールトを離れて数時間、アンジェたちは夜通し山道を走り続けた。誰も一言も口を開かず、沈黙だけを乗せて、ようやくバイクから再びサリーヴの頑強な城壁が見える様になってきた。
わずか一日前に眺めた壁は当然ながら変化があるわけでもなく、変わらぬ姿をそのままに平地に晒す。

「やっと戻ってきたな」

建造物の向こうから差し込む朝日がまぶしい。ハルは眠た気な眼を擦り、呟いた。

「そうですね。……戻ってきちゃいましたね」

アンジェもまたハルの後ろで呟くように応える。昨日はこの壁を背にして出ていき、今は顔を向けて臨んでいる。
まさか一日で戻ってくるとは思っていなかった。出ていってからは予想外の出来事の連続で、これまで生きてきた中でもとりわけひどい夜だった、とハルはハンドルを握りながら振り返る。
久々ではあったが、ハルにとっては特別珍しい事ではない。戦時中には奇襲など当たり前で、前線では睡眠もおちおち取れず、精神的にも追い込まれる者が多くて、ハルもそういった経験には事欠かない。
だからハルが立ち直るのは早かった。切り替えは戦場で生き残るためには重要で、今回も早々に頭を切り替え、一晩中バイクを走らせ続ける事もできた。だが他の二人の事が不安だった。
アンジェは年齢を考えれば、戦争の真っ只中にある時は従軍には早すぎるし、オルレアも、ギルトに居る以上生死には耐性があるだろうが、見る限りああいった苛烈な戦闘経験は無いだろうと推測し、そしてそれは正しいだろうと思っている。
アンジェもオルレアも、スピールトを離れてから一度たりとも口を開かなかった。ハル自身の体の事もあり、何度か休息のために停止して軽い食事を摂ったりもしたが、その時も二人はノロノロとした動きしかせず、心ここにあらずといった感じが続いていた。渡した携帯食料も受け取りはしたものの、手に持ったままボーっとして口に運ぶ気配すら無く、だから半ば強引にハルが二人の口に押し込んだ。それでも抗議の声すら上がらなかったが。
いつかの時みたいに、アンジェを抱き締めてやろうかとも思った。そうすればアンジェも落ち着くだろうし、抱き締めることで何となくハル自身も自らに巣食う不安感を取り払うことができそうな気がした。が、それは躊躇われた。オルレアがいるからでは無く、アンジェ自身が誰かと触れるのを拒絶しているように思えたから。だからハルはそのまま朝までバイクを走らせ続けた。
だがそれも仕方が無い、とハルは諦めていた。自分の様にすんなりと受け入れるには二人ともまだ若く、経験が少ない。オルレアはともかく、アンジェには何となくこういった経験を積んでなど欲しくないとも思うが、遭遇してしまった以上已むを得ない。ここ数年は世界的に落ち着いていると言っても、今後どうなるか分からないし、今回の戦闘でまた各地で激化する可能性は十分ある。慣れてもらうしかなく、そして心の整理をつけるには時間が必要だ。経験からハルはそれを知っていた。
そしてだからこそ、アンジェがハルの呟きに返事をしてくれたのは驚きで、かつ嬉しくもあった。

「もう大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をお掛けしました」

そうアンジェは答えたが、まだ声色は暗い。ハルの背中に隠れてミラー越しに確認することはできないが、顔色も良くはないだろう。
だがとりあえずは大丈夫か、とハルは安堵のため息をついた。

「オルレアはどうしてる?」
「えっと、たぶん寝てるんだと思います。腕組みしたまま全く動いてませんし」
「悪いが起こしてくれないか。もうすぐ中に入るからな」
「はーい」

左手でハルのベルトをつかみ、上半身を乗り出してサイドカーのオルレアに声をアンジェは掛けた。だが静かな朝に響くエンジンの音はけたたましく、しばらく言葉を発してなかったせいか声があまり出ない。なんとか振り絞ってみるが疲れを知らないエンジンは強く、眠ったオルレアには届かない。
景気よくハルに返事をしたは良いが、どうしたものか。思い切って飛び移ってみるか、いやいやヘタをすればオルレアにぼでーぷれすをかましかねないし、失敗すればバイクからの墜落死というマヌケな事になりかねない。
寝不足の頭でクダラナイ事に頭を働かせていたが、背に腹は変えられないと決死のダイブをアンジェが覚悟を決めた辺りでオルレアがゆっくりと眼を覚ました。
朝日の強い眼差しに眼をしばたたかせて、眠気を払うようにオルレアは頭を振った。

「気分はどうだ?」
「最悪だな」

寝起きでそれだけ言えれば上等、とハルは口元を軽く吊り上げる。

「っと、朝からご苦労さん」

城門に到着し、昨日出て行く時と同じ兵士に挨拶を交わす。また時間が掛かるな、と大きく欠伸をしながら、ハルは前もって書いてあった入国書を当直の兵士に手渡した。

「二、三日後と言ってたのにお早いお帰りですね」
「分かってて聞いてるだろ?」

若干険のある言い方だったが、この国のロバーにしては珍しく、年若く人の良さ気な兵士は小さく苦笑いで応えた。

「大変だったみたいですね」
「まあな。おかげでコイツもボロボロだよ。タイヤが無事だったのは幸いなんだろうけど」
「どっちにしろ、命あっての物種でしょう?」
「確かに」

比較的リラックスした雰囲気で会話を交わしていたが、その最中にゲートが開き、門の奥から再度まぶしい光が差し込んでくる。
最初に入った時と比べてあまりにも早い入国許可に、ハルはキョトンとして兵士の顔を見上げた。

「もう入れるのか?」
「ええ。お三方とも身分保障はしっかりしてますし、予め戻ってくるとの連絡もされてましたから」

まさか一日で戻ってくるとは思ってもみませんでしたけど、と苦笑して、ハルもそれには同意せざるを得ない。

「まあこの中は安全ですから」
「そうであることを本気で願うよ」

バイクを発進させ、後ろ手に兵士に手を振って城門を離れる。
街の中は早朝ゆえに昼間の喧騒は鳴りを潜め、朝の早い生活を送る者だけがパラパラと眼につく。それは出国時に見たばかりで特段の目新しさも無い。だが昨夜に眼に焼き付けられた記憶のせいか、同じ景色であってもどこか違った様にも感じられた。
三人は暗黙の了解の元にホテルへと向かう。バイクの音も街の静寂に吸い込まれていく。
引き払ったばかりのホテルに到着し、そこでも城門と似た様な会話を繰り返す。疲労を感じながらもハルとアンジェは笑顔を浮かべて説明し、そして部屋の中に入ると三人はそれぞれのベッドへと倒れ込んだ。





重いまぶたを開き、ぼんやりとした視界が時間の経過と共に少しだけクリアになる。半開きの眼で、体は寝かせたまま首だけを左右に動かし、視覚情報をせっせと脳に送るが途中で伝達経路は途切れて意味を成さないまま情報は廃棄される。
頭は全くもって機能していないが、なんとなく、といった風にアンジェはベッドから上半身を起こした。カーテンは閉められているが、裾からは光が差し込んできていて現在が昼間であることを教えてくれている。

(起きなきゃ……)

やはりなんとなくそんな考えが頭に浮かび、ポケーっとしたまま隣のベッドを見る。ベッドの上ではボロボロのシャツを着たオルレアが枕に顔全体を突っ込んで、死んでるんじゃないか、とばかりに全く動かない。
ロバーだから息しなくても苦しくないんだろうなぁ、いや、そもそもロバーって呼吸をしてるのかな、そうかしてないから苦しくないんだと完全に見当外れの納得をしてそのまま思考停止。眼は完全に閉じて、小さな口からはよだれが伝っていき、体が徐々に傾いて、ついにはベッドから墜落。

「ふみゅ……」

可愛らしい声を上げ、そのまま夢の中へと意識を落としていく。が、下半身はベッドの上で上半身はベッドの下、ついでに顔面は硬い床にキスしている。どう見ても寝苦しい事この上ない体勢だ。

「なんつ―体勢でお前は寝てるんだよ……」

落ちたアンジェをハルは、首をつかんで猫を持ち上げるようにして起こす。

「ふぁ……オハヨウゴザイマス」
「おはよう。とは言ってももう昼過ぎてるけどな」

シャワーを浴びたハルは下着とタンクトップだけを着ている。タオルで濡れた髪を乱暴に拭きながら、アンジェをベッドの上に下ろして自身も腰を下ろす。
ハルの手によってベッドに戻されたアンジェだったが、再びうつらうつらとし始め、今度は隣に座ったハルの方へと倒れ込んでいく。

「おっと……
ったく、コイツはどうしたいのやら……」
「はふぅ……ん〜……気持ちイイですぅ……」
「っ、コラッ、人の胸を揉むんじゃない」

抱きつくようにしてアンジェはハルの胸に顔をうずめ、嬉しそうに顔を緩ませる。だらしない表情でスリスリと顔を押し付けるアンジェをハルは押しのけようとするが、思いのほか力が強く、中々引き剥がせない。

「んっ、こ、らっ! 離せって!」
「ん〜……お母さん…………」

アンジェの口から小さな呟きが漏れる。幸せそうな表情で、だがどこか悲しそうな、泣き出してしまいそうな顔をして寝ていた。
ハルは引き剥がそうとしていた腕の力をそっと抜いた。そしてため息をつくと、アンジェに扱いを任せた。寝息が多少くすぐったいが、少し自分が我慢すればいい事だ。ちょっとくらい良い夢を見させてやっても良い。
視線を下ろすと、セミロングで細い毛質のアンジェの髪が眼に入る。サラサラした金髪は絡むこと無く撫でるハルの指を抜けていく。
優しく、優しく、繰り返しハルはアンジェの頭を撫でる。自分が母親になったらこんな気持ちなのだろうか。湧き上がる感情に頬が緩むのを自覚しながらも、そのままにしておく。

「っひゃい!?」

悲鳴を上げてハルは飛び上がった。
見ればアンジェの手がハルの胸に乗せられてワキワキと揉みしだいでいたりする。

「っ〜!」

起こさないように丁寧に手を剥がそうとするが、そうすればするほどガッチリと掴んで離さない。
起きていてわざとやってるんじゃないか、と思わないでもないが、寝顔を見る限りそんな素振りは見られない。コイツはいったいどんな夢を見てるんだ。というか母親の胸を揉む夢ってどんなシチュエーションだ。グチャグチャの思考に任せて内心で愚痴る。
だがアンジェの寝顔は可愛い。あどけなくて、この世界の汚い部分を何も知らないかのように無垢で。だから起こしてしまいたいが起こしたくない。そんな相反する衝動がせめぎあって、結果何もできずにくすぐったさと微妙な気持ち良さに悩まされる事になったが、いい加減に耐えられず、できるだけそっと起こしてしまおうとハルはアンジェの頭に手を伸ばした。
が―――

「んぅ……小さいです……」

握り拳が全力で振り下ろされた。





「……何があったんだ?」

鈍い音で眼が覚めたオルレアは開口一番にそう尋ねた。
ずっしりと頭にくる鈍痛を堪えることしばし。意識を覚醒させて隣のベッドを見てみればハルは下着とシャツ一枚で仁王立ちし、ペタペタと自分の胸の辺りを触っている。一方でアンジェは頭頂部にでかいタンコブを乗せ、そこから蒸気を醸し出しながらベッドに顔をめり込ませている。浮かぶ疑問は至極もっともと言える。

「何でもない。寝起きの悪いバカに最高の寝覚めをプレゼントしてやっただけだよ」

どう見ても夢よりも深い眠りに就いている様に見えるがそこには触れない。これもまた二人にとって普段の光景なんだろう、と自己完結させ内部時計で時刻を確認する。

「大分寝ていたんだな……」
「それだけ疲れてたって事だろ。どうせ今日は何もする予定は無いからゆっくりしときな」
「いや、体の各所に疲労は見られない。大丈夫だ」
「バカ、疲労ってもんは体だけに現れるモンじゃないだろ?」

ズボンをはきながら諭す様にハルはオルレアに返事をする。バツの悪そうにオルレアは顔を逸らし、それを見てハルはしょうがないな、といった風に軽くため息をつく。

「ま、今日一日色々考えておいても損は無いだろ。特にお前は今後も他人事じゃなくなるだろうし」
「…………」
「アタシはバイクの修理と燃料を補給してくるから。夕方には帰ってくるからそしたら飯を食おう」
「あっ、なら私も行きます」

むっくりとアンジェが起き上がり、ハルに殴られた頭をさすりつつ立ち上がる。
荷物の中から着替を取り出すとシャワー室の方へと走っていく。

「ならアタシは駐車場の所にいるからな。軽い飯を注文しとくからフロントで受け取って持って来てくれ。シャワーもゆっくり浴びて良いぞ」
「はーい」


先ほどまでベッドに沈んでいたのは何だったのだろう、と思わせるくらいに軽い返事をしてアンジェはトテテテ、と足音を響かせてシャワー室へ消えた。
ハルは腰に手を当てて呆れた様にシャワー室のドアを眺めていたが、壁のフックに掛けられていたマントを手に取ると自身も部屋を出て行った。そしてベッドの上のオルレアだけが残された。





-17-





「良かったですね、大した事無くて」

テーブルの上の大量の皿が運ばれていくのを見送って、アンジェはそう切り出した。代わりに出てきたコーヒーカップを手に持ち、喉を潤す。

「元々軍で使われてた物だからな。それなりに頑丈に作られてはいるからちょっとやそっとじゃ壊れはしないとは思ってたけどさ。ま、アイツにも相当無茶させてきてるし、ちょうどいいオーバーホールだよ」

代わりに金が大分飛んだけど、と自分で言いながらハルは少し落ち込んだ。
ハルのバイクは、走行自体には問題は無かったが、細部にはかなりのガタが来ていた。銃弾の雨の中を走行したせいで表面はあちこちが傷つき、多重構造のおかげで走行不能なパンクこそしなかったが表層部はすでに使い物にはならないほどに損傷していた。
加えて無茶な挙動を繰り返したためにサスペンションなどにもダメージが来ていて、だからハルは思い切って全部の取り換えをする事にした。そのためにそれなりの金額が必要となり、手持ちの金だけでは当然足りずに口座から多額の現金を引き落とした結果、残高はかなり寂しいものになっていた。
ブルーな気持ちを振り払うかのようにハルは甘いココアを一気に飲み干す。甘さが舌を滑り、少しだけ幸せな気持ちになる。

「……ホント、ゴメンナサイですね」

カップがソーサーに当たって音を立て、それに紛れるようにしてアンジェがポツリと漏らす。

「私のせいであの子にも頑張らせちゃいましたし、ハルにも、オルレアにも迷惑を掛けちゃいました。
本当に、ごめんなさい」
「よせよ」

やや大きめの音を立ててハルはカップを置く。そしてタバコを取り出して、気分を落ち着けるようにゆっくりと吸い込む。

「誰かが傷つくかもしれない。そんな時に警告するのは人としておかしい事じゃない。ま、中にはアタシみたいに何もせずに離れる奴もいるだろうけどな」
「そう言ってもらえるとありがたいですけど……結局私がきっかけであんな事になっちゃいましたし……」
「あれはもう戦争だ。遅かれ早かれ結果は同じになったさ。アタシたちが気づかずに引き返したとしてもあの兵士たちは奇襲を受けて死んでただろうし、逆にお前が行動してアタシたちが巻き込まれたおかげで時間が稼げて町の人が逃げ出せたかもしれない」
「でも代わりにあのアウトロバーの人を……私が殺してしまいました。頭が潰れて、血みたいな液体がたくさん流れて……
誰かを生かして誰かを殺してたんじゃ、結局同じです」
「……なあ」

ハルの呼び掛けにアンジェは伏せ気味だった顔を上げる。ハルは組んだ両手をあごに当て、アンジェの顔を見つめた。

「もう止めにしないか、そういう考え方」
「え……?」
「アタシもアンタも神様じゃないんだ。誰も彼も救うなんてことはできないんだよ。人が生きてればどこでだって争いごとは起きるし、人は傷つくんだ。
そりゃ誰だって痛い思いはしたくないよ。でもそれは無くならないんだ。人が人である以上はさ。
だったら、もしアンタが誰かを助けたいと思うんだったら、眼に入る範囲の相手にしか手は届かないんだから、そいつらを助けてやればいい。助けたいと思った奴を助けてやればいいじゃないか。誰かを殺さなきゃいけないなら、気に入らないヤツを殺せばいい。助けたくないヤツを見捨てればいい。それが普通だし、戦争なんて状況下じゃ絶対に選ばなきゃいけない時が来る。結局誰かが死ぬかもしれないけど、少なくとも意味はあるし、そう考えればお前の気も少しは紛れるだろ?」
「…………」
「もうさ、そういうもんだって考えるしか無いんだよ。こういうのはさ」

アンジェは押し黙ったまま、ハルの話を聞いていた。
ハルの話はきっと正しい。理想ではなく、現実を見据えた上でそう言ってくれている。自分が悩んでいる内容を推し量ってくれて、元々軍人だという彼女自身が長く悩んで、そしてたどり着いたんであろう結論を諭してくれる。その優しい気遣いがアンジェは嬉しい。
しかし、それと同時に後ろめたさがあった。
ハルの思い至った内容と、アンジェが自覚している悩みとでは言葉にすれば些細な、それでいて大きなすれ違いがあった。
アンジェは誰かを助けようなどと思っていなかった。
アンジェはただ、争いを止めようとした。それだけだった。
スピールトの町で声を発した時、危ないと思った。森の中から兵士たちが狙われていると気づいて、彼らを助けようと思った。傷つくのを止めようと願った。気づけばその場を飛び出し、感じたこともないほどの速度で走っていた。
それが叶わず、彼らの温かい血を感じてから後の事はアンジェもはっきり覚えていない。その際の体の感覚は曖昧でひどく頼りない。だが知覚した景色は断片として記憶の片隅に頑強に残り、自身の思考は明確な現実味を以て心を塗りつぶす。
行動の記憶はおぼろげなのに知覚情報は一部だけ明瞭。そして思考内容は明確。
つまり、記憶が曖昧だった間に彼女を占めていた思考は助けるではない。その思考は欠片たりとも彼女の中には無かった。代わりに全てを消滅させることで争いそのものを成り立たなくさせる、その事だけが存在していた。
みんな消えてしまえば、誰も争わないから。
フラッシュバックの様に唐突に、しかし圧倒的な存在感を持ってそんなフレーズが一瞬だけ思考を支配した。そして光陰のごとく瞬く間に消えていく。後にはフレーズの意図だけがグルグルとアンジェの心に渦巻いた。
アンジェは人知れず体を震わせた。
彼女自身、自らが異常である事を自覚していた。争いごとに対して異常なまでの関心。スピールトの件然り、オルレアと出会った時然り、ハルと出会っての最初の事件然り。そして、昨日の記憶が曖昧であるように、記憶にないだけで過去にも同じような事をしでかして、全てを破壊してしまった事があるのではないか。失われた記憶の中に同じことがあったのではないか。
ならば先ほどの謝罪の言葉さえ白々しい。所詮、在りし日の真実を事実の前に埋没させて誤魔化すためのものでしかない。

「なあ、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「昨日の事をどれだけ覚えてる?」
「……あの人たちが撃たれてからはあんまり……ぼんやりとは覚えてますけど」
「そうか……」

なんでもない、とハルは質問をそれだけで打ち切った。
深く突っ込んでこなかった事にアンジェはホッと息を漏らす。そしてその事が逆によりアンジェの心を責め立てる。それでもアンジェは、自身の異常を口にすることはできなかった。
こうなると昔の記憶が無いのが恨めしい。何故自分がこういう人間になってしまったのか、その手がかりが欲しいというのに脳みその中からはその一片たりとも引き出せない。
だが同時にそれはアンジェに無意識の安堵を与えていた。記憶が無いゆえに何度も衝動に駆られて壊してしまったのではないか、という想像は結局のところ想像に止めてくれる。

すっかり冷めてしまっただろうココアをハルは口に含もうとする。が、話の前に飲み干してしまっていたのを思い出し、店の中へと手を上げて同じものを注文した。
新しいカップが出てくるまで手持ち無沙汰になり、慰みにもう一本タバコを取り出して火を点ける。そして空を見上げる。
カフェのテラスをフィルターで柔らかに操作された日光が照らす。だが上空は風が強いのか、あっという間に雲が流れて日差しを隠してしまった。眩しさにしかめていたハルの目元も自然と元に戻る。
タバコを口にくわえ、両手を後頭部で組んで視線を大通りへと向けた。目の前の片側一車線ずつの道路を店から右に四十秒も歩けばその大通りに突き当たり、大通りを挟んで正面には二十階建てほどのビルが建っている。ガラス張りの建物の四階から六階辺りには巨大なスクリーンが設置されていて、モニターの中ではアナウンサーの女性が必死に言葉を発していた。

「昨日深夜に発生しましたクローチェとの国境付近での軍事衝突ですが、政府はクローチェのスピールト市とヘルゴーニのリーブ市における、あくまで都市同士の独自行動であるとした上で衝突の事実を正式に認めました。政府の発表に依りますと、スピールト側にここ数カ月に渡って大量の武器や弾薬が持ち込まれていて、リーブ市に近々侵攻するとの情報が流れたのが事件の背景と考えられます。今回リーブ市側がその情報を事前に入手し、先制攻撃に踏み切ったとの事で、このような痛ましい衝突に発展してしまいました。
この件につきまして政府は現在事実を調査中との事ですが、外務大臣のガードナー氏は先ほどの記者会見で、もし侵攻の情報が事実であるならヘルゴーニ政府として厳重に抗議し、国を上げての武力行使も辞さないと発表しました。
これに対しクローチェ政府はそのような事実は無く、逆に事実無根な先制攻撃に非難決議を緊急採択し……」

むっつりした顔でハルはオーロラビジョンから流れてくるニュースを眺めていたが、やがて深いため息と共に顔をテーブルへと戻す。いつの間にか注文のココアが運ばれてきていて、湯気がゆっくりとくるくる回って消えていく。正面のアンジェはまだ視線をニュースへと固定していて、じっと厳しい表情を浮かべていた。

「まったく……どっちが正しい事を言ってるんだろうねぇ」
「え?」
「先制攻撃っていうのはリーブ側でも言ってるし、昨日のスピールトの兵士も言ってたから本当なんだろうけど、きっかけはどうなんだろうなって思ってな」
「確かにそうですね……なんとなくですけど、あの兵士の人たちも一方的に攻撃されたって思ってるような感じがしました」
「だからってリーブが嘘をついてるってワケじゃないかもしれないけどな。下っ端が知らなくてもこっそり、ていうのはよくある話だ」
「ハルが、その……軍にいた時にもそういう事があったんですか?」
「軍にいた時? ああ、アタシの場合は軍っていっても他の国の軍に参加する事が多かったから、あまりそういう話とは関係は無かったなぁ」
「そうなんですか?」
「うん、軍人っていうより傭兵に近いのか? 戦争している所に首を突っ込んで、最前線で暴れてる事がほとんどだったから、実際にあんな政治的な話が直接絡んでくる事はめったに無かったな。もちろん全く無しってワケじゃなかったけど、まあ、ほとんど気にした事は無いよ」
「そんなものなんですか……」
「当時のアタシはね。どっちに正義があるとか、そんなのに興味は無かったし、ただアタシが納得できる方に付いてただけだから」

タバコをもみ消してカップを手に取り、一度話を区切る。カップを傾けて口の中を湿らせ、ソーサーの上に置く。その時、ほんの一瞬だけハルは懐かしそうな、そして寂しそうな表情を浮かべた。だがもう一度ココアを口にした時にはそれは消えていた。

「まあアタシの事はともかく、衝突が起こった原因はどっかにはあるんだろうけどさ。本当にクローチェが侵攻を考えてたのかもしれないし、何かの勘違いかもしれない。下手したらどっかの誰かが裏で糸を引いてる、なんて事もあり得るし」
「誰かが意図的に戦争を起こそうとしてるって言うんですか!?」
「あくまで可能性の話だよ。
なあアンジェ。答えが分かりきった質問をするけど、お前は戦争をどう思う?」
「それは……普通に考えてしちゃいけない事です。色んな人が傷つきますし、いっぱい人が死にます。建物は壊れますし、きっと……きっと他にもたくさん失ってしまいます」
「ま、当然の答えだよな。確かにそれこそ数え切れないものが消えていくよ。
でも逆にプラスになるものもある」
「そんなものがあるんですか?」
「ある。一つは技術だよな? 昔からよく言われるけど、戦争が技術を進化させてきた」
「より効率良く人を……殺すためですか?」
「そう。善悪は別として、戦いに勝つために真っ先に思いつくことだ。敵を多く殺せばその分、助かる命もある。一番最悪なのは、いつ終わるか分からない泥沼に陥る事だから」

今みたいにな、と頬杖をついて付け足す。

「で、これはアタシの考えだけどな、どんな事でも世の中には絶対に得する奴と損する奴がいる。当然、戦争にも」
「だから戦争を起こそうとする人がいるって言うんですね?」
「そういう事。得する人数は少ないかもしれないし、得っていうのは即物的な物でも無いかもしれない。でも確実に誰かは得をする。どんな得があってそんな事をするのかは知らないけどな。
お前が今後どういう方向に行くのかは分からないけど、色んな考え方を知っておく方がいい。じゃないと口先だけの奴にいい様に使われるだけだぞ?」

少しだけ警告の意味も込め、ハルはたしなめる様にアンジェに視線を送る。それにアンジェも気づき、ハルを見返すと小さくうなずいた。その様子にハルは口元を緩め、満足そうにうなずき返した。

「あの……」

堅苦しい話が終わったと、ハルは筋肉をほぐす様に首を回していたが、そこで一つの影がハルの姿を覆った。二人はそれに伴って影の主を見上げると、男が二人立っていた。
一人はやや銀がかった金髪をしており、それを整髪料でビシッとオールバックにまとめている。身長は中背。ハルよりもやや高い程度で細身だが不健康そうには見えない。メガネを掛け、面長の顔は理知的な雰囲気を出しているが、ハルを見下ろす眼は目元が少し垂れ気味で、浮かべている笑顔も相まって取っつきにくい印象は与えない。スーツを着用しているがネクタイの類は着けておらず、気持ち開いた首筋がフランクさを醸していた。
もう一人は一歩引いて直立していた。珍しい黒髪で、硬い髪質なのか短髪では無いがピンと髪も立っている。一人目と同様に面長の顔だが釣り上がった眼は細く、本人にそのつもりは無いのだろうが睨んでいるように見えなくも無い。営業ビジネスマン然とした最初の男とは対照的にスラックスにシャツを着込み、その上には旅人が好んで着るマントを着用していた。

「何か?」
「いえ、失礼ですが旅をしていらっしゃる方だと存じますが?」

突然話しかけてきた男に警戒しつつ、ハルはうなずいて肯定の意を示す。それを聞くとメガネの男は嬉しそうに笑みを深めて後ろの男と顔を見合わせた。

「実はお願いがありまして……」

そう言うと男は事情を交えてアンジェたちに事情の説明を始めた。

ノイエン・ケルトナーは歴史学者であると名乗った。世界中を巡り、失われてしまった多くの歴史的事実を探しているらしい。だが、戦争によって多くの建物や遺跡、文献も失くなってしまったため苦労している、と全く苦労を感じさせない笑顔を浮かべて話した。
その事をアンジェが指摘するが、ノイエンは照れくさそうにセットした頭を撫でる。

「やはりこういう事が好きなんでしょうか。大変だとは思うんですけどそれ以上に楽しいんです。性分なんでしょう」
「ならもう天職だな。まったく、このご時世に羨ましいよ」
「ええ、その点に関しては運が良かったと思ってます」

代わりにお金にならない職業ですが、とノイエンは苦笑いを浮かべた。
だがハルはその言葉に怪訝な表情を浮かべた。金が無い、と言う割りにノイエンの着ているスーツは真新しい程に綺麗で、頭髪やヒゲなど身なりもきちんと整えられていて、とても旅人には見えない。

「その割りには良い物を着てるじゃないか。とても旅をしてるとは思えないよ」

とても言葉通りには受け取れないな、とハルは一層警戒を強め、返す言葉にもいささか皮肉が混じる。それでもノイエンは気づかないようで、嬉しそうに事情を明かした。

「最近スポンサーに恵まれまして、ありがたい事に調査に必要な費用の全てと私の給料まで頂いてるんです。彼も護衛としてスポンサーの方が紹介してくれましてね」

これまで一言も発せず、姿勢も崩さずに立っていたもう一人の男をノイエンは紹介した。
シュベリーン・ペリクレスです、と名前だけ述べてアンジェたちと握手を交わし、また元の立ち位置に戻って口を閉ざす。その淡々とした様にノイエンは申し訳なさそうに自分の頭を撫でる。

「こういった世の中ですし、彼にも大分お世話になっているのですが、如何せんこういう性格ですので……気を悪くしないでもらいたい」
「あはは、大丈夫ですよ。気にしてませんから」
「アンジェさん、と仰いましたか? そう言ってもらえて助かります」
「それで、本題は何だ? お願いとか言ってたけど。
ああ、別に座ってもらって構わない。ついでに何か注文しようか」

なら、とノイエンは店員を呼んでコーヒーを、シュベリーンは水を頼む。
カフェで水を頼むな、とハルは声を大にして主張したかったが、そこは自重した。代わりに他の二人が苦笑いをしていたから。
お二人はどうですか、料金は私が持ちますよ、とノイエンに尋ねられ、ならば、とハルもアンジェも言葉に甘えさせてもらう事にした。

「それでですね、お二人とも旅をされてるという事で、そのお話を聞かせて頂きたいんです」
「そりゃ構わないけど……どんな話でもいいのか?」
「そうですね……
これまでにお二人が見聞きされた、それこそ噂話程度のささいな事でも結構ですので私の仕事に関係ありそうな話して頂けると助かります。どんな所にどんな歴史的事実に繋がるヒントが隠されているのか分かりませんから。
ああ、でも特に見慣れない建物や、珍しい話などに心当たりがあればそこらを重点的に教えてくださると嬉しいですね」
「う〜ん……珍しい話ですかぁ……」

改めて考えてみると難しい。
アンジェは腕を組んで眉を寄せる。つい最近から振り返ってみるが、特にそんな話は聞いた覚えは無く、更に思い出そうと躍起になってますます難しい顔を浮かべる。
そんなアンジェとは対照的にハルは、あごに手を当てて軽い気持ちで思い返してみる。ここでパッと何かを思い出せるに越したことは無いが、残念ながらそんな事は無く、またハル自身も期待はしていなかったので、ノイエンの言った通りに適当な所からの取り留めも無い話を話し始めた。
それは遥か東のイスミールでどんな建物があり、人々はどういう暮らしをしていたとか、ヴァルダナの海沿いの町ではモンスターが頻繁に現れて多大な被害が出ているなどといった、ノイエンが求めているであろうモノとはどう考えてもかけ離れている話から、北へ行ったオデオンには見たことない建物があったとか、あるいはガリアの国境あたりではこんな噂が流れていたなど、逆にノイエンがまさに求めている話まで、ハルが長い旅の中で耳にした様々な事が語られた。
アンジェも時々思い出しては話に参加し、なけなしの情報を与える。無論、ハルに比べれば非常に情報量としては乏しかったが。
それでもノイエンはどんな些細な話であっても熱心な様子でメモを取り、また興味が引かれる話には矢継ぎ早に質問をぶつけ、詳しく情報を手にしようと一生懸命だった。
ノイエン自身は聞き上手で、何でも楽しそうに聞いてくるためアンジェもハルも次第に多弁になっていき、その時々のくだらない話なんかも混ぜながら楽しい一時を過ごせていた。


「もうこんな時間か」

気づけば相応の時間が経っており、日が少し傾き始めていた。ふとした時に時計が眼に入ったハルが驚きを以てつぶやいた。

「あっと、大分お時間を取らせてしまいましたね。申し訳ありません」
「いえいえ、私たちも楽しかったですから。ね、ハル?」
「ああ。あんまり昔回った街の事を思い出す機会はないからな。良い時間だったよ」
「それで、何か役に立ちそうな話ってありました? 大した話はできませんでしたけど……」
「ええ、詳しくはこの後分析してみないと分かりませんが、幾つか面白そうな話がありましたし、うかがった中から今度幾つか向かってみようと思います」

楽しかったです、と言葉に違わない表情で何処か名残惜しそうにノイエンは立ち上がった。他の三人も同じく立ち上がって互いに握手を交わす。

「アンタらも色んな国を回ってるんだろ?できればそっちの話も聞きたいな」
「そうですね……私としてももっとお話をしたいんですが、この後もスポンサーの方のご機嫌を取らないといけないんですよ」

そのスポンサーとの事を思い出したのか、疲れた様にため息をつく。ハルも事情を理解し、同情の視線をノイエンに向け、そしてほとんど言葉を発しなかったシュベリーンを一瞥した。
護衛とノイエンは紹介したが、ハルはこの男がスポンサーから派遣された、いわゆるお目付け役ではないかと察した。
ノイエンは単なる歴史学者ではない。いや、話を聞いている時の様子からノイエン自身は一歴史学者に過ぎないのかもしれないが、調べてる内容はその領分を越えるところがあるのではないか。そしてシュベリーンはノイエンが余計な事を喋らないように監視する役目。いざとなれば口を封じる事も含めて。
そこまで考えてハルは、いつの間にか力んでいた事に気づき、そっと肩の力を抜いた。そして内心で苦笑いを浮かべた。
昨日の事が尾を引いているのか、どうにも考えが偏っている。
ノイエンの説明におかしな箇所は無いし、ハル自身旅先で何人かノイエンの様に遺跡みたいな場所を訪れていた学者を見たことがある。護衛というのも、まだ戦争が終わって間もなく治安が悪い事を考えれば当然の話。見た限りノイエンに護身に足る能力があるように見えないし、頭脳に関しては護衛をつけてもらえる程に優秀だということだろう。

「もし良かったら今晩一緒に酒でもどうだい?息抜きにもなるだろ?」

ふと何気なく口にした話だったが、自分の中で繰り返す内に名案の様に思えてきた。久々に酒を飲みたいし、オルレアも連れてこよう。アイツも息抜きが必要だろうし、博識だろうコイツと話せばアイツ自身のためにもなる。
勝手に頭の中でストーリーができ上がっていき、満足そうにうなずく。アンジェも両手を上げて賛成し、ワクワクしながらノイエンの返事を待つ。
二人のそんな様子に苦笑いを浮かべながらも、そうですね、と同意を告げる。

「美しいお二人にそんなに楽しそうに誘われたら断るわけにはいきませんね。
スポンサーとの面談がいつ終わるか分かりませんので確約できませんが、時間の都合がつき次第参加させて頂きます」

ノイエンの返事にアンジェとハルは顔を見合い、笑みを浮かべた。
そしてこちらから誘ったのだから、とノイエンの宿の近くの酒場で飲もうとホテルの場所をハルは尋ねた。
その気遣いに感謝を述べ、ノイエンは場所を説明するために先ほどニュースを流していたビルの方を指差した。
空は影っていた。黒い雲が太陽を隠し始める。
夕暮れに差し掛かり、スクリーンではニュースキャスターがニュースを読み上げていた。昼間と同じニュースを流し、解説員らしき人物がキャスターの隣で何かしら述べている。そして変化は突然だった。
一瞬、スクリーンが真っ黒に変わる。
そして、巨大なスクリーンが突如砕け散った。
破片が光を反射しながら下へと落ちて行き、不幸にも真下を歩いていた人たちを襲う。
悲鳴が湧き上がる。怒号が飛び交う。逃げ惑う人々。
ビルの中から再び爆発が起こる。火の塊が窓を突き破って生き物の様に荒れ狂う。
それを合図として、ビルは轟音を立てながら崩れ落ちて行った。










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