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epilogue 









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(c)新藤悟 2005 - All Rights Reserved




今日に変わって何度目かのチャイムが鳴った。
それと同時に授業中の厳かながらも弛緩した空気が、張り詰めた風船が張り裂けたみたいに一気に開放されてあっという間に賑やかになっていった。まったく、どれだけ成長しても小学生以来連綿と続く昼休みの時間になった瞬間に感じる解放感とはかくも素晴らしいものだと思う。
僕も手に持っていた鉛筆を机の上に広げていたノートに向かって放り投げて、緊張で凝り固まった目元を揉み解した。当然、僕のノートには授業内容に関することは一切書かれていない。
今くらいは、事件の事を考えたくない。
ともすれば無意識の内にでも頭の中を占めてしまいそうな事件についての色々な考察を無理やり強制的に意識の外に押しやって、コッチに近づいてくる友人二人に軽く手を上げた。

「早く食堂に行きますわよ! 今日は月に一度のチョコバナナパスタライスが販売される日ですの! 急がないと売り切れてしまいますわ!」
「……いつ聞いても胃もたれしそうなメニューだな」

 ユキヒロの感想には全力で同意する。ちなみに件のゲテモノメニューは、円形のカレー皿の中央にご飯が敷き詰められて、ご飯を囲むようにバナナを練り込んだ生地を茹でたパスタが置かれて、更にご飯の上にはたっぷりの生クリームがあってその上にはぎっちりととろけたバナナスライスが敷かれてトドメとばかりに甘々のチョコレートがお好み焼きの上にかかったマヨネーズ宜しく掛けられているという、どう考えても学生の胃と味覚を破壊しにかかっているとしか思えないものだ。月一で五食限定で売りに出されているらしい。お値段なんとお手頃の一〇五〇円! どうやら学生の財布もクラッシュしにかかってるらしい。

「てかそれ、確実に売れ残るだろ」
「何を言ってるのですの! 昼休みになって五分後には完売確実の超人気メニューですのよ! ああ! もう二分経ってますの! こうしては居られませんの! 先に行ってますわ!」

 そう一方的に僕らに言い残して、さっきまで熟睡してた奴とは思えない勢いで廊下を走り去っていった。普段は鈍足のくせに何故だかこの時だけタマキの足は異常に速い。

「……俺らも行くか」
「そうだな」

 すっかり教室の中はもぬけの空だ。何人かは未だ教室に残ってくっちゃべってるけど、たぶん人がはけた後に食堂に行って落ち着いて食べるんだろう。その場合はメニューの大半が売り切れでまともなのが残ってないけど。

「そういえばユキヒロ、メガネ変えた?」

 さっきまで気づかなかったけれど、よく見てみればいつものに似てるけれど少しメガネのフレームの形が違う。細いフレームなのは変わらないけど、前のはレンズの周りにフレームが無かったのに今日のは上半分を黒いフレームが縁取ってる。

「ああ、実はいつものを寝起きで踏み潰しちまってな。今日はとりあえずスペアを引っ張りだしてきた」
「ああ、それはご愁傷様」
「全くだ。朝からツイてねえよ」

 そんな会話をしながらタマキの後を追ってた僕らだけど、ここで僕のポケットに入れてた携帯が震えた。

「ゴメン、先に行っててくれ。何なら先に食べててもいいからさ」
「ああ、分かった。席は確保しといてやるから早く来いよ」

 そう言ってくれるユキヒロを見送りながら携帯を開くと、表示されてたのはスバルの名前。たぶん、昼休みになるのを待ってたんだろうと勝手な推測をしながら通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てた。

「もしもし、ヒカリ? ああ良かった、出てくれて」

 連日徹夜に近い生活をしてるからか、声質も口調もスバルなんだけどひどく疲れていて、どこか別人の様な印象がした。

「ああ、うん。昼休みだからな。それで急ぎっぽいけど、何かあった?」

 スバルに尋ねながら、僕は予感がした。それはきっと、悪いニュースだと。
それはスバルの口調がいつもより硬質な印象を感じ取れたかもしれないし、話す口調がいつもより冷静さを欠いていると感じ取れたからかもしれない。
果たして、スバルは予想通りの聞きたくない知らせを教えてくれた。

「自衛隊と政府が事件の事を公表するって。さっきサユリちゃんから連絡があった」
「――え?」

 一瞬、僕の頭の思考が止まったのが自分でも分かった。止まってるくせに思考停止を認識できるなんておかしな表現だけれど、そうとしか言えない。例えるなら、誰か他の人間が僕の事を客観的に眺めてる、そんな感じだろうか。
その次に襲ってきたのは焦燥。体表面から熱が一気に引き上げていって、その熱を補うかのように心臓は矢継ぎ早に沸騰しそうな程に熱い血液を全身に送り出していく。
 この展開を予想してなかったワケじゃない。想定はしていた。だけどもあくまで可能性の低い未来予想図だった。それも、最悪に近い方の。

「ちょ、ちょっと待ってくれよっ! いったいどうして急に……」
「昨日事件があったんだ。たぶん、それが原因だと思う」
「事件って……言っちゃなんだけどそれだって別に今は珍しくないし……」
「違うんだ、ヒカリ。これまでの事件とは違うんだ。もう隠しようが無かったんだ」

 珍しく悲痛さが混じったスバルの声。悲鳴にも似たその叫びに、僕の心臓は幾分熱量を下げた。
軽く深呼吸をして、電話越しにスバルにも落ち着くように告げると、短く「そうだね」という返事の後に、喉が鳴る音が微かに聞こえた。たぶん、手元にある何か飲み物を飲んだんだと思う。
それで落ち着きを取り戻したらしいスバルは、一拍の空白の後に何があったのかを話し始めた。



 事件が起きたのは昨日の深夜。時間帯としてはこれまでにあった深夜帯でそれほど珍しくはなくなってしまっている時間だ。
けれども、いつもと違ったのはその規模だった。
最初に見つけたのは、ある五人組の捜索班だ。いつも通り周囲を警戒しながら注意深く捜索していた彼らの前に、不意に一つの人影が現れた。
それは黒いパーカーのフードを目深に被った人型。過去に目撃された情報と寸分違わない格好で、夜の闇に紛れてしまいそうなその人影は一人、煌々と照らし続ける明かりの下に立っていたとの事だ。
まるで、彼ら魔術師が現れるのを待っていたみたいに。

「遭遇したその捜索班の人たちは向こうから姿を現したことに驚いたけれど、当然ながら犯人を捕まえようとしたんだ。だけど、犯人はそこから薄っすらと笑って逃げたんだ」
「自分から姿を現したっていうのに?」
「うん。どうしてわざわざ自分を捕まえようとしてる相手のところまで行ったのに逃げたのか、そこがボクも最初は理由が分かんなかったんだけどさ、続きを聞いて分かったよ」
「どういう事だ?」
「――犯人は自分を餌にしたんだ。もっと魔術師を集めるために」

 一瞬の間を開けて、スバルはそんな事を言った。

「たぶん、犯人は捜索班がどこを探しているかを全部把握してるんだと思う。だって、犯人が逃げた先っていうのが他の捜索班の居る場所だったんだからね」

 スバルの話で奇しくもさっきの僕の推測が補強された形になる。どうして犯人がそんな事を知ってるのかについては確証がないけれど、それよりも今は続きだ。

「……それで、どうなったんだ?」

 いくら犯人が強くたって追いかけてるのは正規の魔術師だ。これまでは一人の魔術師ばかりが狙われていたけれど、今回は戦闘を生業にしてる自衛隊の魔術師部隊だ。とてもじゃないけれど、たった一人で立ち打ち出来るとは到底思えない。正気とは思えない、まるでここに来て狂ってしまったかのような所業だ。あっさり捕まって事件は解決だろう。普通なら。
けれども、ここで犯人を捕まえられたのなら事件を公表する意味が無い。だとしたら、想定できる結末は一つしか無いわけで。
 話を聞きながらいつの間にか僕の喉はカラカラだった。粘りつくような唾液を無理やり嚥下して、スバルに続きを促して、分かりきったはずの答えを些かの興奮じみた感情で待った。
だけど、返ってきた答えは僕の想像を超えていた。

「……全滅だよ」
「――っ! そんな、まさかっ!」
「ホント。総勢十人の魔術師がいたけれど、無事に、というか重傷は負ってたらしいけれど帰ってこれたのはたったの一人だけ。他は――」
「――全員、ドッペルゲンガーを奪われた」

 正解、ってため息混じりの短い返答が受話器の奥から聞こえてきた。

「さすがにみんな周りの事なんて考えてなんて居られなかったんだろうね。大規模な魔術を町中で使いまくってさ、辺り一帯の家屋は全壊半壊だらけ。火の海になって付近は大規模停電。そして電気が消えちゃったからあちこちで特異点が発生して魔物がわんさか。おかげで自衛隊や警察の特殊部隊は総動員さ。一般の人にもいっぱい犠牲者が出ちゃったし。朝からネットもテレビもこのニュースで持ちきりだよ。出てきた魔物がみんな小物ばっかりだったのが不幸中の幸いだね」

 これまでは被害者が襲われるばかりで、小規模な戦闘ばかりだった。塀とか道路に多少の被害はあっただろうけれど、世の中が世の中だからその程度なら皆たいして気にしないし、だから事件の事も、一部でしか話題になってなかった。
だけども、ここまでの騒ぎになってしまったらもう隠しようが無い。逃げ惑う過程でたくさんの人が戦闘を目撃してるだろうし、巻き込まれた人も大勢いるはずだ。

「コウジの話だと、一部未だに事件の公表を渋る連中も居たみたいだけどさ、最終的には押し切られたみたい。顔は覚えたって言ってたから、たぶんこれからコウジがその連中にアプローチ掛けるんだと思うんだけど……」
「きっと、犯人を切り離しに掛かってくるだろうな……」

 事件は、きっとこれで終幕へと向かっていく。これまでよりも大規模に魔術師部隊を投入していくだろうし、警察も公開捜査に踏み切るから目撃証言とか情報収集に動きまわるだろう。
いつかは犯人も捕まるし、被害も止まる。でも、それは僕らの敗北だ。

「少なくとも裏で動いてる連中はしばらくまともに動かなくなるし、色んな証拠を処分しに掛かるだろうね。そしてその中にはきっと――ドッペルゲンガーもあるよ」
「ホンっと――」

 最悪だ。思わず舌打ちが出てしまう。
そうなれば全てが終わりだ。これまでの苦労が水の泡。そして――

「ユズホさんも、戻らない」

 自分の口から零れ出たその言葉が、まるでどこか他人ごとの様に聞こえた。

(はい。不肖、四之宮ユズホ! その任務謹んでお受け致します!)

 最後にユズホさんと交わした会話が不意に蘇った。涙で濡れた痕がまだ微かに残ってて、それでも笑みを浮かべる彼女の笑顔が、薄情にも初めて鮮やかに浮かんできた。

(縁起でも無い……っ!)

 まるでそれが彼女を失うことが確定した未来であるかのように思えて、僕は思わず頭を振ってそんな想像を打ち消した。
 まだ、まだだ。まだ間に合う。今は起きてしまった事態を嘆くべきじゃなくて、今、何をすべきかを考えるべきだ。
 廊下から一度教室に引き返す。窓際の自分の席に戻って椅子に座って、僕は眼を閉じて頭を抱えた。

「……今回の事、スバルはどう思う?」

 感じる、違和感。
これまでの犯人のイメージは狡猾でかつ慎重。ターゲットはずっと一人きりの魔術師だったし、捜索隊に見つからないよう行動範囲を選んでる。
なのにここに来てのイメージ反転。気を大きくして無謀な行動に出たのか、それとも他の理由があるのか。その動機を推し量るのは難しいけれども、僕が思う答えは――

「たぶんだけど……自衛隊なのか政治家なのかはしんないけどさ、もう犯人の事を制御できてないんだと思う。だから最終的に公表に賛同したんじゃないかな」
「だよな……」

 机の上に広げられたままになってた地図を僕は見下ろした。
始めの方は事件は寮の比較的近くで起きていた。時間帯も日付が変わって朝が近い深夜だったし、絶対に一晩に一件しか事件を起こしてなかった。けれども、ここ数回は場所はてんでバラバラ。時間帯も比較的夜も浅い時間に変わってきてるし、一晩で二人、三人が襲われてるケースだってある。
 もし犯人がすでに暴走しているなら、さっきまで整理してた場所とか時間帯もあんまりアテにならなくて、ヘタすれば今こうして話している瞬間にも事件が起きている可能性だってある。
それで犯人が捕まるだけならまだマシだ。でも、もしかしたら情報をバラされない様に事件の黒幕が犯人を抹殺してしまうかもしれない。

「時間が無いよ、ヒカリ」

 スバルの言う通り、こうなってしまえば僕らに残された時間は少ない。

「判ってるさ。だけどスバル」
「何さ?」
「時間が無いのは判ってるけど、スバルに一つ、調べて欲しい事があるんだ」

 だったら、僕の出来ることを全力で進めるだけだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 スバルに調査を依頼して電話を切り終えた時にはすでに昼休みも終盤。もうまさに予鈴が鳴ろうか、という時間で、となればすでにまともにお昼を食べる時間はほとんど無いわけで、已む無く走って自販機に向かって時間が無い時に大人気のバランス栄養食を十秒チャージするしか無かった。おかげで今は少々の腹痛に苦しんでいる。
スバルとの共通認識通り、僕らに時間は無い。だからって僕がここで東奔西走、あちこち走り回ったって何かを得られるかと言えばそうでもなく、むしろ頭の中で情報の整理を続けた方がよっぽど有意義だと思う。
とは言え、午後の授業の一発目は戦闘訓練の授業。落ち着いて思考を巡らせられるかと言えば間違いなくノーではあるけれど、深く考えずに一度体を動かすのも悪くないのかもしれない。
「それでは本日の訓練を開始する! 各自二人組を作れっ!」

 担当教官のバカでかい声がやたらと広い訓練施設内に響き渡って、僕らは各々でペアを作っていく。
今から行うのは剣と防具を使った近接戦闘用の訓練で、魔術の使用は禁止だ。
魔術師とは言っても、魔術だけで僕らは戦闘はできない。詠唱の時間に棒立ちだと魔物の格好のターゲットだし、魔術を行使するにしても魔物の攻撃を回避するだけの技術は会得しておく必要がある。実際には得手不得手があるから、積極的に剣で攻撃する近接戦闘スタイルと、回避を重視して詠唱の時間を稼ぐ遠距離スタイルに別れるんだけども、この授業に関してはそんなのお構いなしだ。
担当の教官が前衛スタイル脳筋なせいか、この授業中は全員に接近戦を強要して逃げに徹すると厳しい叱責やら補習やらになるからタマキみたいな生徒からはすこぶる評判が悪い。まあ、全く逆に魔術の訓練だと魔術の威力重視な生徒が有利になるから、そっちはそっちで前衛スタイルの生徒からの評判が最悪なわけだけど。どっちももうちょっと融通を効かせるべきなんじゃないかと思うけれども、双方の仲が悪いからその期待は薄い。

「今日の相手は紫藤か。宜しくな」
「お手柔らかに頼むよ」

 声を掛けてきたのは池田という、特任クラスの中だと僕らに悪い意味で絡んでくる事もないクラスメートだ。特別に仲が良いわけじゃないけれど、普通に挨拶や会話を交わす程度には良好な関係を持っている、僕らにとっては安心して接することができる人当たりの良いやつだ。良かった、悪いニュースもあったけれど運は悪く無いみたいだ。
コイツもどちらかと言えば前衛スタイルで、よく使われる熱魔術や電気魔術と言った放出系の魔術が得意じゃない。と言っても、どの魔術も平均並みにこなせる万能選手だけど。昔から剣道を習ってたらしくて、強化された肉体に加えて僕らから見たら洗練されてる攻撃はお世辞じゃなくて脅威だ。

「よく言うよ。お前の方が強いくせに」
「そんな事無いさ。僕に剣術の才能は無いからね。たまたま高い身体能力でゴリ押しするしかないんだよ」
「それが俺らにとっては脅威なんだけどな」

 そう言うや否や、柔和な笑みを一瞬で消した池田が鋭く踏み込んでくる。
手に持つ剣は、普段の見回りで使ってるプログレッシブ・ソードと同じ形で、だけれども当たっても大事にならないように特殊な衝撃吸収シートが巻かれてる。それでも直撃すれば青痣は免れないのだけれど、そういうわけで皆ケガとか気にせずにガンガン相手に当ててくる。
風を切って横薙ぎに振るわれた剣を僕は剣の腹で受ける。シートのおかげで金属同士のぶつかり合う音も無くて、些か緊張感に欠けるのは否めないけれど、痣を作るのも嫌だから受ける側としても結構本気だ。

「フッ!」

返す刀で、少しだけ力を込めて池田の手に向かって模擬剣を振り下ろした。けれども池田も読んでたみたいで剣の位置を少し変えただけで鍔の部分で受け止める。そしてお返しとばかりに今度は池田が僕の腹目掛けて蹴り上げようとしてくるけれど、僕はそれを半身だけずらすだけで受け流した。
やっぱり机の上で頭を使ってばっかりよりか、体を動かした方が気持ちいい。コウジみたいに頭よりも体が先に動くタイプじゃないと自負はしてるけれど、たまには汗を掻くのも悪くない。
軽く息を弾ませながら僕と池田は、まるで予め決められてたみたいに交互に攻撃を繰り返していく。そこには別に相手を倒そうというよりも、どちらかと言えば自分と相手の動きの確認に近い。
打ち合い始めて何合経っただろうか。打撃を含めて絶え間なく攻撃し続けたからか、段々池田の呼吸が荒くなってきてて、だというのに段々表情が好戦的になってきて攻撃先も「僕を倒そう」って意図が明確に見えてきた。

「今日こそ一撃入れてやるっ!」

 叫びながら、これまでよりも明らかに力が込められた連撃が僕を襲う。振るわれる剣の速度ははっきりと増しているのが分かるし、その一撃一撃が、食らえば意識を持っていかれかねないほどの威力を持ってる。
もっとも、僕はそんなものを体で受けてやる気もないけれど。

「シッ!」

 池田の攻撃を僕は真正面から剣で受け止める。もう終わらせよう。この限定された場では僕は強者だ。そんな傲慢を胸に、力任せに強引に池田の剣を跳ね上げた。
池田の手から剣が離れて、上空でクルクルと回って落ちてくる。カラン、と床に落ちたそれが音を立てた時にはすでに僕の模擬剣は池田の首を捉えていた。

「……参った。降参するよ。相変わらず馬鹿力だな」
「魔術が使えないからな、僕は。ただでさえ自分でも何でこの学校に在学できてるのか分かんないのに、これでこの授業でも赤点ならますます周りに何を言われるか分かんないよ」
「違いない」

 どうやら体力的にも結構限界だったらしく、池田はため息と同時に腰を下ろして両手を上げた。

「あら、そちらももう終わりましたの?」
「タマキ」
「朝霧か。見ての通り、今日も完敗だよ」
「まったく、情けない男ですわね。たまには意地でも見せてみなさいですの」
「そういう朝霧はどうなんだよ?」

 タマキの言い様に、床に座ったまま池田は口を尖らせた。
 逆に自分の方に矛先を向けられたけれど、タマキは腰に手を当てて黒い戦闘着に包まれた豊かな胸を思いっきり張った。

「負けたに決まってますわ」
「胸張って言うことかよっ!!」

 まあタマキだしな。魔術の威力なら他の追随を許さないくらいにピカ一だけど、一対一になると、相手も遠距離タイプじゃ無い限り一瞬でやられるだろうし。
僕らはとりあえず試合が終わったわけだけど、広い訓練場を見渡せば、まだ他のクラスメートたちの大半はやり合ってるみたいで、そこかしこから男女問わず気合の入った声が響いてる。
さてどうするかな。いつもならこのまま目立たない様に大人しくじっとしとくんだけど、先生受けの良い池田も居ることだし、指示を仰いでもいいかもしれない。そう思って先生の姿を探すけれど広い訓練場の中、どこを見たって見当たらない。

「職員室にでも戻ってんじゃないか?」
「でしょうね」

 ま、いいか。普段には無いやる気を出したところで碌なことにはなんないし、大人しく皆の様子を見取り稽古とでもいきますか。
そんな事を考えながらタマキと池田と一緒に壁際へと移動していた時、俄にざわめきが聞こえ始めた。僕らは揃って顔を見合わせて渦中へと視線を向けた。

「――ユキヒロ?」

 その中心にいたのはユキヒロだった。そして、何が起こっているのかは未だ把握できていないけれど、三人に取り囲まれていた。

「だ、か、ら、そんなに遠慮すんなって。俺らが練習相手になってやるからよ」
「そうそう。どうせあっさり練習が終わって暇なんだろ? 俺らもちょうど暇なんだ。だからいいだろ?」
「お前もいっつも負けぱなっしってのもつまんネェよな? せっかく俺らが親切心で鍛えてやろうって言うんだからよ、素直に従っとけよ」

 岩田ミチヒロ、清水タカユキ、川崎ショウ。ユキヒロを取り囲んでる三人は学内の有名人でもあり、そして同時に――問題児だ。
通常の世間一般の様々な分野では、大体が実力と比例して人格も成熟していることが求められる。プロのスポーツ選手然り、ビジネスの世界然りだ。もちろんどの世界でも必ずしもそうなっているかといえばそうではなくて、だけれども世間の要求としてはそうなっていると思う。
けれども、残念ながら魔技の分野この界隈だとそんな事は望むべくもなくて、ほとんどの魔術師が高い実力を持つほどに人格的には逆比例していってしまっている。
強くなるほどに傲慢に。高みに上るほどに他者を見下していく。解決手段は暴力。弱い奴は人にあらず。そんな傾向が強くなる。実力の高さと人格の質の低さが必要十分条件になってしまってるみたいだ。
そしてこの三人も例に漏れず、弱い者いじめを遊びと同じ感覚で進んでやるくらいには人格的に問題で、同時に高い実力を持っている。
近接戦闘、魔技のレベルはいずれもクラス内で五指に入るほどに優秀で、そしてそんな優秀な実力を持て余してるみたいにこういった戦闘訓練になると教員の眼を盗んで自分より劣ってると思ってるクラスメートにちょっかいを掛けてくる。言葉みたいに親切心なんて微塵もなくて本心はストレス発散と弱者を叩きのめす事によって得られる快楽だけ。そんな人間だから僕らとは違った意味でクラスどころか学校中から煙たがられている。もっとも、当人たちにそんな事を気にしてる風は微塵も無いのだけれど。

「ほら、時間もねぇんだからよ、さっさと始めちまおうぜ?」

 三人の中でもリーダー格の清水がニヤニヤと笑いながらユキヒロに向かって剣を構えた。
状況はかなり問題だと思うのだけれど、例えこんな状況を教師に話したって解決には向かわない。何故なら脳筋教師は「弱い方が悪い」って取り合わないんだから。世間一般だと大問題になるはずだけれど、この界隈だと一向に問題にならないのは由々しき問題だとは思うんだけどな。
そんなワケだから、不幸にも遊び相手に選ばれた人間も対処法を弁えたものだ。とりあえずは大怪我をしないように防御に徹して、そして適当なところでわざと負けるんだ。ダメージを殺すために盛大に吹っ飛びながら。そうすれば相手は溜飲を下げるし、後で変に絡まれる事も無い。つまりはそれが手っ取り早いんだけど、それはそれであの三人の地頭の悪さを露呈してるっていうのに三人共気づいてないんだろうな。

「……」

 ユキヒロはため息を軽く吐きながらしぶしぶって感じで剣を構えた。
 ユキヒロは知識豊富で座学の成績は良いけれど、こういった直接的な戦闘は苦手な部類に入る。僕が見る限り基礎的な運動能力は決して低く無いんだけれど、肉体の強化のレベルが低くてスピードでも力でも相手に追いつけない。だからこの勝負でも圧倒的不利で、それは聡明なユキヒロだから自分でも自覚してると思う。こうして勝負を挑まれるのも今回が初めてじゃないし、いつも通り適当なところで負けてやるんだろう。
最早日常的な光景と化してしまっているし、こっちとしても変に拗れて誰にも得にならない自体にならないように静観することにした。ユキヒロなら適当にあしらってくれるだろうし。
僕はそんな決まりきった未来を期待して、そしてそれはその他のうんざりした表情で事態を見守るクラスメートにしても同じだと思う。
けれども。

「あっ?」

 そんな声を上げたのは誰だったか。一方的に清水たちが攻撃を加えてユキヒロが防ぎながらも頃合いを見て出来レースを終わらせる。そんなみんなの望む予定調和を、けれどもユキヒロは嘲笑うみたいにして壊してしまった。
訓練場の床に転がっていたのは清水だった。何が起きたのか理解できてないみたいで、呆然として薄汚れた天井を眺めていた。
僕を含めて誰一人事態が頭の中に入ってきてなくて、ただ一人ユキヒロだけが呆れた様にため息を吐いてズレたメガネを直していた。

「てめっ!」

 予想外の光景に呆気に取られていた岩田と川崎の二人もようやく事態が飲み込めてきたのか、慌ててユキヒロに対していきり立って威嚇するように声を荒らげてる。

「まずいですわ」

 タマキの言う通り、これはまずい。一応試合、という形に則っていたのか清水一人がユキヒロに相対していたけれど、このままだと二対一、下手をすれば三人揃って同時に相手にすることになりかねない。
体を起こした清水の表情を窺い見てみれば、顔を真っ赤にして見るからに激昂してる。歯をむき出しにしてギリギリと歯ぎしりの音がコッチにまで聞こえてきそうだ。
徐ろに訓練場の空気が変わっていってる。誰もが事態のまずさに近くにいる友だちと囁きあって、けれどもどうすべきかの――火中の栗を拾いに行くべきか――判断が下せずに意図せずして静観の状態を維持してしまってる。

「加勢しよう」

 タマキと池田にそう伝えると、二人共頷いてくれた。

「落ちこぼれが調子に乗りやがって!」
「このクソがァッ! ぶち殺すッ!!」

 だけれども僕らが動き出すよりも早く、清水たちがユキヒロに襲いかかってしまった。
ついさっきの舐めた感じじゃなくて、クラストップクラスの実力者らしい鋭い踏み出し。強化された肉体を最大限に活かして瞬時にトップスピードに乗って、一瞬奴らの姿が霞んだすぐ後にはユキヒロの頭目掛けて剣が振り下ろされていた。
何より――

「ユキヒロっ!!」

 タマキの悲痛な叫びが訓練場に響いた。よく見れば、清水たちの剣に巻かれていた衝撃吸収シートが剥ぎ取られてる。そんなものが頭に当たってしまえば、下手をしなくても死んでしまう。
最悪の事態が頭を過る。僕の体はすでに事態の中心に向かって飛び出しているけれども、間に合わない。割って入るよりも早く剣は届いて、ユキヒロの体は吹き飛ばされてしまう。
けれどもユキヒロは落ち着いてた。
メガネの奥から覗く瞳が細かく左右に動いたかと思えば、素早く剣を頭上に掲げて清水の攻撃を受け流してしまった。
半身をずらして、その足で清水の足を振り払う。宙に浮いた清水の体をそのままユキヒロは蹴飛ばすと、一八〇センチを超える清水の巨体が、まるでストライカーが蹴ったサッカーボールみたいに飛んでいって、十メートル近く距離があった訓練場の壁にぶつかってやっと止まった。
同時に迫っていた川崎の剣を、ユキヒロはあろうことか空いていた左腕で受け止めた。骨が折れてもおかしくないはずの衝撃で、だっていうのにユキヒロは涼しい顔をしてる。
次いでやってきた岩田の拳。ユキヒロの腹目掛けて振るわれたそれは、けれどもユキヒロに届く事は無かった。
当たる直前にユキヒロは清水の攻撃を受け止めた剣を手放した。新たに空いた右手で岩田の腕を掴むとその腕を捻り上げて、肘を支点にして腕が不自然な形に変わってしまった。

「ぐぎゃああああああぁぁぁっ!!」

 岩田の泣き叫ぶ声で訓練場が静まり返った。それでもユキヒロは涼しい顔のまま岩田を強引に体ごと川崎に向かってぶつけ、その二人はもみ合う様にして床を転がっていった。

「ぐ、お……」
「いてぇ、いてぇよ、いてぇよぉ……」

 川崎のうめき声と岩田の嗚咽が響く。あっという間に三人を蹴散らしてしまったユキヒロ。
「まったくいい加減にしろよ……ただでさえこっちは最近寝不足でイライラしてるっていうのに……」

 乱れた髪の毛とメガネを整えながら、ユキヒロは心底苛立ってるみたいで、眉根に深く皺を寄せて床に転がったままの三人を冷たく見下ろした。
強い。たぶん、この場にいる誰もがそんな感想を抱いたことだろう。仮にもクラストップクラスの三人を危なげなくも退けて、息一つ乱してない。クラスの大多数はこの三人から迷惑を被らされていたから含むところが多々あったんだろう。さすがに称賛こそはしないけれど、いつもとはユキヒロを見る視線が違って侮りの色は無くて、少しの恐怖心と大部分の感嘆が僕には見て取れた。

「……染矢って実はこんなに強かったのか。てことは今までは手を抜いてたんだな。くそ、参ったな、また倒さないといけない奴が出てきちまった」

隣の池田が悔しそうに頭を掻いてる。けれどどこか嬉しそうだ。武道家気質の池田だ。きっと手合わせしたい相手が増えたことに喜んでるんだろう。
しかし、僕とタマキは言葉を失ったままだ。何故なら僕らは知っている。ユキヒロにこんな力はないって。
もちろん池田が言う通り本来の実力を僕らにも隠し通してたのかもしれない。僕らとユキヒロが出会って一年以上直接戦った事は無いから、あるいは僕らの知らないところで必死に鍛錬を積んでいたのかもしれない。普通ならそう思う。

「……ヒカリはご存知でしたの? このことを……」
「いや……」

 タマキの問いに僕は首を横に振った。
ユキヒロは決定的に扱える魔素が足りない。これはもう才能のレベルの話で、少しずつ訓練で増やすことはできても劇的に増えることなんて無いはずだ。魔素の量はそのまま身体能力のレベルに、あるいは扱う魔術のレベルに直結するけれど、さっきの動きを見る限りは清水たち三人よりも遥かに扱っている魔素は多いに違いない。もっとも、それさえも僕らと出会った時から力を見せてなかったとしたら、今のユキヒロを否定できる要素は何処にも無いのだけれど。

「ともかく、これでアイツらも懲りただろ。少なくとも染矢にちょっかい掛けようとは思わないだろうしな」
「だといいけれど……」

池田が楽観的にそう言ってくるけれど、果たしてそうだろうか。何となくだけれど、往々にして清水たちみたいな人間は特にプライドが高いと思う。そして、格下と見下していた相手から叩きのめされてメンツを失った連中が取る行動で、真っ先に思い浮かぶことって言えば。

「――っ!!」

 突然感じる魔素の高まり。いつもはひんやりしているはずの訓練場の空気が、ありもしない熱気に侵されたみたいに急に粘り気を帯びたように感じられる。
これが示すものと言えば――
 僕は焦燥に急かされて振り向いた。

「許さねぇっ……!」

 そこには、起き上がった清水が憤怒に突き動かされていた。
ユキヒロに蹴飛ばされた時か、それとも壁にぶつかった時に切ったのか、前頭部からはダラダラと血を流して右手で傷口を抑えて、けれども真っ赤に充血した双眸はユキヒロを捉えて射殺さんばかりだ。
清水の口が音を紡いだ。

「イェ・ゲファレン・エスタス・ヴェルヒェン・ビレム……」

 静まり返った訓練場に清水の声が静かに響く。素早く、正確な詠唱。震える声は痛みのせいか、それとも怒りのせいだろうか。
瞬く間に描かれていく魔法陣。励起した魔素が魔法陣に収束していって、陣の中心に出来る小さな火球。始まりは小さく、けれどもそれは僕らが呆気に取られている一瞬にして人一人を覆い隠すほどに巨大なものに成長していった。

「何考えてんだ、アイツはっ!!」

 温和な池田が珍しく罵倒するけれども、清水は止まらない。訓練場の冷えきった空気は今はもう熱気に包まれてしまった。
 池田が清水を止めようと飛び出した。僕も少し遅れて、他にも何人か頭に血が昇った清水に向かって駆け出した。

「エゴ・ゲファレン・ゲル……ダメっ! 構成が間に合いませんわっ!!」

 タマキが叫ぶ。タマキの作った陣は一応の形を成して、けれども清水の火球を止めるほどに威力を上げるには、いかにタマキが優秀な魔術師だろうとも時間が足りなさ過ぎる。

「恥をかかせやがって……っ! 死にやがれこのクソ虫がぁッッッ!!」

 僕らの制止が届くこと無く、巨大な火球がユキヒロに向かって放たれた。
その一撃は必殺の一撃だ。赤から青へと発色を変えて、間違いなく魔術師であっても焼き尽くす。それも、跡形すら残さずに。

「ユキヒロぉぉぉっ!!」

 スローモーに見える光景。ユキヒロは棒立ちのままだ。迫り来る熱魔術の暴力を前に立ち竦んでいるんだろうか、微動だにしていない。

「――、――」

 ユキヒロの声が聞こえた。
それは声と言えるかどうか、僕には判断がつかなかった。意味のある言葉にしてはあまりにも声が重なり・・・・・過ぎてて、そしてあまりにも音の変化が速すぎて。
唯一つ確かなことは。

「……っ!」

 一瞬にしてユキヒロの正面に構築された魔法陣。その速度は決してスバルにも劣らない、否、スバルを上回ってる。
そして僕の眼に飛び込んでくるコード情報。それを見ても僕は、この魔法陣が何を生み出そうとしているのか理解できなかった。一瞬で構築したにしては有り得ない程に高度で複雑だけれども、理由はそれだけじゃない。
何というか、ムダが多い。それはきっと短時間で構築して吟味する時間が無かったからだと思うし、スバルやタマキが描くコードが相当に洗練されているからなおさらそんな印象を抱いたのだと思う。
瞬時に理解するにはあまりに不必要な部分が多くて、まるで別々の人が作ったコードを無理やり一つにまとめたみたいだ。
 けれども、威力は絶大。

「アイシクル・ランス」

 やっと聞き取れる速度で発した言葉と同時に魔法陣から現れる巨大な氷の槍。ユキヒロを覆い隠すくらいに大きなそれに清水のファイアーボールがぶち当たった瞬間、耳をつんざく破裂音が辺りを激しく揺らして、火球から奪った熱量で溶けた氷が蒸発して訓練場の中を真白に染めていった。

「きゃああぁぁっ!」

 高密度の蒸気が爆風と共に僕らに襲い掛かってきて、誰かの悲鳴が上がった。

「ぐぅっ!」

 誰もが腕を顔の前で交差させて眼をつぶった。腕も顔も、来ていた訓練用の戦闘服がじっとりと湿り気を帯びて、そしてしばしの時間を経て、山の霧が晴れるみたいに視界がクリアになっていった。

「……どうなりましたの?」

 吹き飛ばされそうになって、いつの間にか僕にしがみついていたタマキが後ろからソッと顔を出しながら尋ねてくる。だけども尋ねられても僕は答えを持っていなくて、むしろ僕自身が知りたい。あの爆発の後でユキヒロは無事なのか、怪我はしてないのか。
きっと誰しもが固唾を飲んで状況の変化を求めてる中、果たして、ユキヒロは清水の傍に立っていた。
足元で転がっている清水。うつぶせのまま動かなくて、ユキヒロはそんな清水を冷たく見下ろしてた。

「ユキヒロ……」

その姿はあまりにも僕らの持つユキヒロのイメージとはかけ離れてて、何をどうしていいのかみんな分からず、ただその場に立ち尽くすしかできなかった。苛烈な音の後に残った静寂が、僕らにはずいぶんと重くのしかかっていた。

「おい、お前らっ! 何をやっとるんだっ!!」

 呼吸すら難しいくらいに粘ついた空気を破ったのは、どうやら職員室から戻ってきたらしい教官だった。短髪のせいで分かりにくいけれども頭頂部が薄くなった中年の先生が怒声を伴って、僕らが集まっている中へ割り込んできた。そんな彼も、今僕らの目の前に広がっている惨状を目の当たりにして言葉を失って、ただ一人現場に立っているユキヒロに向かって肩を怒らせて歩み寄っていった。

「やっぱり貴様が原因かぁっ、染矢っ!!」

 何が「やっぱり」なのか一体全体さっぱり分からないんだけれども、どうやらこの教官は全ての元凶をユキヒロだと断定したらしい。無抵抗なユキヒロの腕を捻り上げると、さっきの戦闘で剣を受け止めた左腕の袖口が赤く滲んでいた。それに気づかずか、教官はユキヒロの腕を持ったまま引きずるようにして訓練場の出口へと向かっていく。

「ま、待ちなさいですのっ!」
「そ、そうです、先生! 悪いのは……」
「タマキ。池田」

当然僕らは誤解を解くために抗議の声を上げて、池田も仲間に加わってくれたけれども、その声を他ならぬユキヒロの声が押しとどめた。

「後で説明してもらうから今はいい。それより清水たちを介抱してやってくれ」

 教官も場の空気に気づいたのか、幾分バツの悪そうに眼を僕らから背けた。それでもユキヒロの事が気に入らないのは相変わらずらしく、清水たちの介抱を適当に指示してユキヒロを連れて出ていった。
 誰もが感じる後味が悪い空気の中、僕らは渋々と清水たちを医務室へ運ぶ作業を開始するしか無かった。



チャイムが鳴って昼休みになると同時にスバルから電話。 事件を公表することになったとのこと。 理由としては昨日、魔術師と犯人の大規模な戦闘が発生した模様。 多数の魔術師がドッペルゲンガーを奪われたとのこと。 その際に多数の魔術を高レベルで行使され、付近の住宅や住人に大きな被害が発生した模様。 「暴走してる?」 「やばいよ。ヘタしたら、このままだと事件そのものが終わってしまう」 その時に、スバルに「獏が犯人説」の噂の出処の調査を依頼する。 (もしくは顔見知りの動向調査。事件の時にどこに居たか、など) 午後からは実践を想定した訓練。 潰した剣と防具をつけての訓練で、魔術の使用無しの訓練。 ヒカリはいつも通り力をセーブして、目立たないように戦っていた。 その時、ユキヒロがクラスの人間に絡まれているのを見た。 助けに行こうとしたが、ユキヒロは軽くそいつらをあしらった。 (普段はユキヒロは身体能力も低いとみなされていた) 激昂したクラスメートは、禁止された魔術を使ってユキヒロを急襲。 だがユキヒロはそれを容易く受け止め、思いっきり魔術を叩きつけてしまう。 (普段は魔術も威力は中途半端なはずだった) 教師がやってきてユキヒロ含め全員連行。 魔術を受け止めた時にできたらしい傷をヒカリは目撃(その傷は実は昨夜の戦闘での傷) 組織: 魔術師に対抗する存在を作り上げるのが目的。 魔術師に支配された世の中を人間の手に取り戻す。 国会にもコネがあり、息の掛かった人間を続々議員として送り出している。 同時に、政治献金によって発言力を強めている。 全貌は不明。獏を攫っている組織は下部組織であるが、つながりは不透明。 下部組織は研究組織の一つ。多数のドッペルゲンガーを一人の人間に憑依させることで 多様な能力を手にするとともに、才能の無い人間にも魔術師としての能力を顕現させようとした。 (つまり、全員を魔術師にすることで魔術師の特別性を無くす) またドッペルゲンガーには不明点が多く、その研究素材としてもドッペルゲンガーを欲していて、 ドッペルゲンガーに干渉する能力がある獏を研究していた。
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